長谷部誠のCL好プレーにスタジアム騒然 名手“ケイン封殺”の舞台裏、元ドイツ代表主将も「ワールドクラス」と唸ったベテランの業
【ドイツ発コラム】CLトッテナム戦で最終ラインを統率、無失点に抑えたチームに“長谷部あり”
日本代表MF鎌田大地と元日本代表キャプテンのMF長谷部誠を擁するドイツ1部フランクフルトはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージ第3節で、プレミアリーグ3位に付けているトッテナムとの一戦をスコアレスドローで終えた。イングランド代表FWハリー・ケイン、韓国代表FWソン・フンミン、ブラジル代表FWリシャルリソンという強力攻撃陣を無失点で食い止めることができたのは長谷部の存在が大きい。
今季スタート時にオリバー・グラスナー監督は4バックシステムを採用し、DFトゥータとDFエヴァン・ヌディカをセンターバック(CB)に起用していた。個々の能力は高い2人だが、自分のプレーだけではなく、スペースの管理、相手選手のマーク、優先順位のつけ方、ビルドアップからの展開など、幅広いタスクに振り回され、不安定なパフォーマンスに終始していた。
そんな2人が調子を取り戻すことができたのは、グラスナー監督が3バックへの回帰を決断し、そして長谷部を3バックのセンターに配置したからだ。長谷部の存在がトゥータとヌディカのプレーを安定させているのは間違いない。長谷部がいることで2人は局面ごとに自分の役割が明確になり、持ち味を発揮している。
サッカーは確かなインテリジェンスが求められるスポーツだ。試合中のプレー判断を明確にする過程をクリアにすることは、選手が自身のパフォーマンスを引き出すうえで極めて重要なポイントとなる。その過程をすぐ近くで助けてくれるのだから、若手選手にとってこれほどありがたいことはないだろう。この日もそうだった。2人がボールを持つとすぐにサポートができる位置にポジショニングを取る。
長谷部は言う。「(トゥータとヌディカは)普段だったらプレッシャーの中でももう少しうまくプレーできるんですけど、(今日は)ちょっと怖がって焦って焦って、というのがあった。僕のところでボールを預けてもらって、そこから自分のところか前に付けることができたら、もっと良かったかなというのはあります」
それにしても慌てない。後半24分に自陣ペナルティーエリア付近でクリアボールを拾ったシーンでもすぐに蹴り出さず、トッテナムの選手がプレスに来ようとしているのにじっくり持ち運んで、左サイドのMFイェスパー・リンドストロムへ鋭いパスを通したのだ。これにはスタジアムのあちこちから「おおおぉ」とファンの唸り声が聞こえてきたほどだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。