日本を救ったGKシュミットのPKセーブ、やり直しの可能性もあった? 選手の“侵入ルール”を元主審・家本氏が解説
【専門家の目|家本政明】PKシーンを基に「ペナルティーエリアへの侵入」をVAR介入の可能性も含め考察
森保一監督率いる日本代表は9月27日、ドイツ・デュッセルドルフで行われたエクアドルとの国際親善試合で0-0と引き分けた。元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が、この試合で日本の最大のピンチとなったペナルティーキック(PK)シーンを基に、「競技者のペナルティーエリアへの侵入」についてビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の介入の可能性も含めて解説した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
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エクアドルとの一戦で日本は後半35分過ぎ、DF谷口彰悟のペナルティーライン上付近のファウルを取られ、PKを与えてしまう。このPKの場面で、相手のキックを日本代表GKシュミット・ダニエルがシュートコースを読み切ってビッグセーブ。最大のピンチで失点を免れると、0-0でタイムアップを迎えた。
このPKシーンでは、シュミットのセーブしたボールをMF堂安律がサイドラインにクリアした。映像では、PKキッカーが触れる直前に堂安はペナルティーラインを踏んでいるようにも見え、「競技者のペナルティーエリアへの侵入」により“PKやり直し”との指摘も挙がった。この点について、家本氏が競技規則を基に見解を示した。
「ハイライトの映像だけでは、はっきりと侵入したかどうかは分かりません。仮に、堂安選手がボールが蹴られるよりも早くペナルティーエリア内に侵入したと仮定すると、それは競技規則上求められていない行為ということが1つ。そして違反を犯して侵入した競技者が、ゴールキーパーやゴールポスト、クロスバーから跳ね返ったボールに直接触れたり、攻撃側の選手がボールにプレーするのを邪魔したことがVAR側の映像ではっきりと確認できた場合、VARがレフェリーに助言をして、PKのやり直しとなります」
逆に、侵入した競技者がプレーに関与しなかったり、利益を得なかった場合は、VARは助言しません。レフェリーが直接事象を確認できていたら話は別ですけど、同時に多くのものを見ているのですべてのことを正確に見極めるのは非常に難しい。そこで、試合に大きなネガティブインパクトを与えるような事象があった場合(上記のようなケース)は、VARが助言をするという形になります。GKもボールが蹴られる前に少なくとも片足がライン上にあるのが競技規則で定められていますが、たとえスーパーセーブをしてもボールが蹴られる前に片足がラインに残っていなければ認められず、PKのやり直しになります。考え方としてはそれとほぼ同じです」
さらに、家本氏が「非常に似た事象」として挙げたのが、5月14日に行われたJ1リーグ第13節・鹿島アントラーズ対北海道コンサドーレ札幌戦(4-1)の前半にあった鹿島のPKシーンだ。キッカーを務めた鹿島FW鈴木優磨が蹴り込んだボールを、札幌GK菅野孝憲がぎりぎり残した足で弾き、最後は札幌DF福森晃斗がクリアした。しかし、主審がその後VARと交信。福森がキック以前にペナルティーエリアに侵入しており、直接プレーに関与したため、鹿島のPKがやり直しとなった。この事象は、スポーツチャンネル「DAZN」の人気番組、Jリーグジャッジリプレイ#11でも取り上げられ、話題を呼んだ。
今回のエクアドル戦では侵入の事実は認められず、VARの介入もなくシュミットのセーブによって失点を免れた日本だが、カタール・ワールドカップ(W杯)本戦ではVARチェックでの厳しい判定に泣かされる可能性もある。このような珍しい事象にも十分に気を付けていく必要があるのかもしれない。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。