Jリーグの“誹謗中傷問題”に元主審・家本政明氏が警鐘 「倫理観と道徳心を持って、事と人を分けてほしい」

日本サッカー界での対策も必要か「SNSやネットは社会的でグローバルな問題」

 では、この誹謗中傷問題に日本サッカー界は今後どうしていくべきなのか。家本氏は、「Jリーグ、日本サッカー協会が主体となって、この問題に対してどう対策を取るか、選手やレフェリーをどう守っていくかをもっと真剣に考える必要があると思います」と切り出し、選手や審判などがネットに関する知識や対策を学べる環境やサポートの整備を提唱している。

「レフェリーも選手も一般人ですが、著名度で考えた時に公共性が高いという意味で少し違うところがあります。公共性が高い人に関しては、ネットの光と闇のような構造やリテラシーについて協会経由などで講習やトレーニングを受ける必要があると思います。それらを分かったうえで、SNSというツールを使うようにしないと、知らないうちに問題に巻き込まれてしまう可能性がある。組織は選手や審判を預かっているという観点から、教育とサポートをしっかりとやっていくべきだと個人的には考えます」

 そういった整備の必需性を語った家本氏だが、この問題が世界中でまだ対策が追い付いておらず、解決に時間がかかることも理解している。

「SNSやネットの問題は、サッカーというスポーツだけでなく社会的でグローバルな問題で、なかなか難しい話。多くの人がそういった行為は道徳、倫理的にも駄目だと分かっていますが、『表現の自由』があるなかで、誹謗中傷や侮辱、名誉棄損などをどう棲み分けて罰していくか。まだ世界的にも整備し切れていないと思います」

 そう課題を語った家本氏は最後に、「ネットの世界に入り込みすぎるのは、あまりポジティブには働かない」と目的や知識を持たないSNS使用の怖さを伝えつつ、誹謗中傷の一件について総括した。

「ネットの世界には光と闇が共存しています。その両方をちゃんと理解しないで利用したり、目的がない状態でSNSに関わると、ネットの闇に飲まれてしまうことがある。それによって心を傷付けられたり、恐怖心に煽られる危険性もある。どこの誰が何を言っているのか分からないのは本当に怖い。ネットの世界に入り込みすぎるのは、あまりポジティブには働かないと思います。いずれにしても倫理観と道徳心を持って、事と人を分けてほしいです」

   ◇   ◇   ◇

 誹謗中傷という難解な問題に対して、レフェリー視点から率直な見解を語った家本氏。9月23日に行われるキリンチャレンジカップの日本代表対アメリカ代表の一戦では「家本政明ぶっちゃけLABO」というオンライン同時視聴イベントを開催する。試合で起きた出来事から、普段のサッカー界に対する疑問に至るまで、独自のレフェリー目線でリアルタイム解説する“家本節”にも注目が集まる。

家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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