Jリーグの“誹謗中傷問題”に元主審・家本政明氏が警鐘 「倫理観と道徳心を持って、事と人を分けてほしい」

家本政明氏が“誹謗中傷問題”について、審判の視点から幅広く考察【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
家本政明氏が“誹謗中傷問題”について、審判の視点から幅広く考察【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

【専門家の目|家本政明】JリーガーへのSNSでの誹謗中傷問題を考察

 森保一監督率いる日本代表が9月に欧州遠征(23日アメリカ戦、27日エクアドル戦)を予定しているなか、日本対アメリカ戦で「家本政明ぶっちゃけLABO」というオンライン同時視聴イベントを開催する元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏。9月10日に行われたJ1リーグ第29節の横浜F・マリノス対アビスパ福岡戦(1-0)で、横浜FMのFW西村拓真に対する福岡DF奈良竜樹のタックルから派生して問題となった“誹謗中傷問題”について、審判の視点から幅広く考察した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 事の発端は奈良の危険なタックルだった。西村が相手陣内で攻撃に絡んだ際、奈良がスパイクの裏で踏みつける形となり、西村は左足首を負傷。13日にクラブは、西村が左足関節外側靱帯損傷で全治4~6週間と診断されたことを発表している。

 また、この事象からSNS上で選手への誹謗中傷が寄せられたことが判明し、横浜FM、福岡の両クラブから9月11日に誹謗中傷の投稿に対する声明が発表されるなど別の形で問題が派生してしまった。

 奈良の一件を受けて、誹謗中傷問題に対する見解を家本氏に聞くと、「人間がすることなので、行った行為とその人を切り分けられないところは正直あります。ただ、悪い行為をした選手のすべてを悪と包含するのは違うと思いますし、今回(奈良選手)の件も、それが一緒くたになっている気がします」と述べている。

「奈良選手のタックル自体は競技規則上、罰せられるに値すると思います。ただ、意図的に傷付けてしまったのか偶然なのかは難しいところで、意図があったらもっと周りの反応も違うと思いますし、これは相手を傷つけて良くないよねという行為と、奈良選手自身の人間性は絶対に切り離して考えなければいけない。それを一緒くたにして攻撃している人が多いのは本当に残念です」

 さらに家本氏は、「レフェリーにも同じようなことが言える」と持論を展開。「納得感のある判定が下されなかった場合、『判定が良くなかったね』という評価と『こうすればいいよね』という対策が提案されればいいですが、一方的かつ感情的にそのレフェリーのすべてを悪と報じられたり、SNS上での発信が散見していると思います。それによって心を病んでしまったり、有能な人を失った場合に誰が責任を取るのか。あるいはちゃんと罰せられるのか。そういう事を考えると悲しい気持ちにしかならないし、誰も浮かばれない。インターネットが全盛のなか、社会的問題にもなっているので法的整備も含め、“弱者”がちゃんと守られる世界になったらいいなと思います」と現代特有の課題の解決を望んでいた。

家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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