今野泰幸が回想する南アフリカW杯と伝説の一言 エース降格の中村俊輔から学んだプロ意識、本田圭佑に感じた“野心”
グループリーグ初戦でカメルーンを撃破して雰囲気は一変
今野によれば、選手ミーティングは通常、メンタル面に関する話が多いというが、この時は戦術論に話が及び、意見が真っ二つに分かれた。
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「岡田監督が2年半かけて準備してきたサッカーは、みんなが前からプレスに行って、しつこくしつこく守備をして、奪ったあとはみんな上手くポジションを取りながら、パスをつないで速く攻めていく。でも、世界の強豪と戦った時に、プレスに行きすぎると前が持たないという話になって、全部プレスに行くんじゃなくて行く時と行かない時をはっきりする、時には引いて守るのもいいんじゃないかという意見も出ました。
ただ、監督のやろうとしているサッカーがあるから、選手で話し合って、それを変えるのはおかしいんじゃないかと。あの時は追い込まれて、自分たちのサッカーに自信が持てなかった時期で、意見は半々くらいでした。当時、中堅だった自分は、ミーティングの時にずっと考えてはいましたけど、話を聞いているだけ(苦笑)。もともと監督がやるサッカーを体現できる選手がいい選手だと考えているタイプなので、おそらく今でも何も言えないと思います」
岡田監督は5月30日にオーストリアのUPCアレーナで開催されたイングランドとの国際親善試合(1-2)で、阿部勇樹をアンカーに置く4-1-4-1システムに変更。W杯前最後のテストマッチとなったコートジボワール戦では従来の4-2-3-1に戻し、最終的に遠藤保仁(現・ジュビロ磐田)と長谷部誠(現・フランクフルト)のコンビを崩さずに阿部勇樹をその背後に配置することで守備力を高め、本田圭佑を0トップとして最前線でプレーさせる形に落ち着いた。「正直、岡田監督も迷ったと思います」。今野は、コンサドーレ札幌時代に師事した恩師の胸中をおもんぱかる。
「(川口)能活さんが、岡田監督にどう話したかは分かりません。でも、岡田監督は(戦い方・コンセプトを)『変える』とは言わず、『状況によって様子を見る。ブロックも作る』と。いつの間にかシフトしていった感じ。何年もかけてやってきたことを直前で変えるのはありなのか、って考えたはずです。ただ、初戦のカメルーン戦で早い時間帯(前半39分に本田の得点)に先制できたから、ゴールを守る意識がみんな高くなりました。必然と前へプレスに行く時は行くけど、引く時は引くとはっきりできた。あれが入っていなかったら、方向性が見えずに迷いながらプレーしていたと思います。それまでの状況がすごく悪かった分、初戦でガラッと変わりましたね」
グループリーグ初戦のカメルーン戦の勝利(1-0)が生まれ、勢いに乗った岡田ジャパンは2002年の日韓大会以来となる決勝トーナメントに進出。今野はグループリーグ第3戦のデンマーク戦(3-1)で後半43分から起用されたのみだったが、怪我の悔しさを胸の内にしまい、盛り上げ役に徹した。
「闘莉王さんの『俺たちはW杯32か国の中でも下のほうなんだから』という言葉がずっと頭にあったので、みんな1試合勝っても浮かれることはなかったです。これから手ごわい相手と戦っていくんだという気持ちもあって、気はずっと引き締まっている感じでした。年上の選手が多かったし、みんながイジってくれました。自分から何かを発信することはできないし、自分から何か面白いことはできないけど、誰かがイジってもらってチームの雰囲気が良くなるなら嬉しいなと思っていました。プレー面では、『岡田監督のために』『自分が求められているプレーを体現できればいい』という気持ちが強かったです」