降格危機の磐田、フットボール本部の新体制スタート 藤田新SDの未来ビジョンとは?
自分たちが主導権を握り、アクションを起こしていくスタイルを理想像に
フットボール本部の設立も藤田氏のSD就任もおそらく既定路線だが、時期が少し早まったのだろう。藤田SDも「今の状況を度外視してやりがいがある」と語るが、今後のプランについて「まず来年以降については今語るべきではない」と多くは語らず「まずは6試合で何をするべきか。次の6試合に集中したい」と主張した。
少し矛盾するようだが、要は残留争いの救世主として藤田氏が来た訳ではないが、今やれるサポートは精一杯やるいうことだ。浦和レッズに6-0の大敗を喫した翌日に伊藤彰前監督が解任されたが、コーチだった渋谷洋樹新監督が就任してからも、状況が大きく好転することはなく、3試合で勝ち点1に止まっている。その間にライバルのガンバ大阪やヴィッセル神戸も勝ち点を上げており、磐田だけが取り残されたような状態だ。
藤田SDはすでに数日前から渋谷監督といろいろな話をしているというが、戦術面や選手起用に関しては監督やコーチに一任して、そこに口を挟むようなことはしないと強調した。そのなかで、「コンディションを整え、モチベーションをさらに高めるのがやれること」と語る。つまりはピッチ内ではなく、ピッチ周りのところで、チームが気持ち良く力を発揮していくためのサポートに徹するという。
来シーズンをJ1で迎えるのかJ2で迎えるのかで、おそらく今後の成長の加速度が違ってくる。J2のほうが基盤からチームを作りやすいという声もよく見るが、J1昇格は生優しいものではなく、昇格を逃せば補強した選手も、成長した若手も早く移籍してしまう。ただ、結果がどうなろうと、藤田SDを中心に磐田が目指していく方向性は大きく変わらないかもしれない。
「今のジュビロの状況を考えた時に、いい時代があったと言ってもらえる。僕はあまりそう考えたことがない。明日何をするかのほうが好きです」
具体的なプランは語らなかった藤田SDだが、イメージとしては自分たちが主導権を握り、アクションを起こしていくスタイルを理想像として描いているようだ。
「ワクワクしたものを見てもらいたい思いは強い。そのためにどんなサッカーをしていくかを僕だけでなく、監督、コーチと一緒に考えて、みんなで議論して、世界の水準で戦えるサッカーを目指して、どんどん構築していきたい」
欧州でも最高峰の1つと言われるイングランドのフットボールに触れてきた藤田SDは「ゲームテンポを上げないと、上には行けない」と言うが、それに見合った技術も必要であると指摘する。ただし、単に欧州の真似をするのではなく、自分たちの良さは生かして融合していくこと。その化学反応が新しいジュビロ磐田のフットボールを作っていくことを強調した。
おそらく藤田SDがクラブから打診を受けた時よりチームの置かれている状況は悪くなっている。順位や勝ち点もそうだが、新型コロナウイルスの陽性者が新たに5人出るなど、いい状態で次の試合に臨むことも難しくなっているなかで、まず残り6試合でJ1残留を目指していく。そしてシーズンが終わった時に、改めて新たなジュビロ磐田の未来像見えてくるだろう。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。