ナポリが見せた「勇気」 リバプールのハイプレス攻略、リスクを恐れなかった“疑似カウンター”
【識者コラム】CL初戦でリバプールを撃破できた理由は相手のハイプレス攻略
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)が開幕、マッチデイ1(グループステージ第1節)のサプライズは昨季のファイナリストであるリバプールの大敗である。
ナポリは前半だけで3ゴール、後半早々にも1点を追加した。リバプールも1点を返したが4-1という思わぬスコアになっている。開幕からなかなか調子の上がらないリバプールには、ショッキングな負け方だろう。
ナポリのリバプール対策はずばりと当たっていた。浅いディフェンスラインの裏を突いてチャンスを作っている。GKアリソンに防がれたPKやゴールラインぎりぎりでリバプールDFがクリアしたシュートもあり、ナポリはあと2点ぐらい取れていても不思議ではなかった。
FWヴィクター・オシムヘンのスピードや新加入FWクヴィチャ・クヴァラツェリアの突破力が光ったナポリだが、ポイントになったのは自陣からのビルドアップを敢行した勇気ではないかと思う。ゴールキックの多くを近くの味方につないで再開していた。ハイプレスが強力なリバプールを相手になかなかできることではない。
勇気を持ってつなぎ、リバプールの最初のプレッシャーを外せたことが大きかった。次々に襲い掛かってくるリバプールのハイプレスはよく知られているが、それをやるにはディフェンスラインを高くしなければならない。ナポリはそれを狙っていて、わざとリバプールを食いつかせるためにつないでいた。リバプールが前がかりになるや、すかさずディフェンスラインの裏へパスを送って快足のオシムヘンを走らせた。
ハイプレスで奪いきれないとライン裏が空く。この弱点をついて、ナポリは次々とチャンスを作り得点を重ねた。それが可能になったのは、ナポリがリバプールのプレスを恐れずに自陣からビルドアップする姿勢を貫いたからだ。
クロップ監督は「ゲーゲン・プレッシング」という言葉を広めた。敵陣でボールを奪ってしまえば、攻撃へ移行しかけている相手の守備は崩れている。固められた守備ブロックをどう崩すかではなく、崩れている状態の時に攻撃すればいい。ゲーゲン・プレッシングは、ボールを支配できても崩せずに悩む多くのチームにとって福音となった。
当初、リバプールはボールポゼッションを重視していなかった。ボールが相手陣内にありさえすればいいので、ロングボールで押し込んでのプレッシングを行っていた。現在は自陣からビルドアップして押し込むようになっている。その間には、ポゼッションと見せかけて相手をおびき出してロングボールを使う「擬似カウンター」を使った時期があった。ナポリのリバプール対策は、この擬似カウンターの時のリバプールと似ていた。
ビルドアップを破壊するハイプレスが流行すると、今度はハイプレスの裏を突くためのビルドアップが生まれる。互いに刃物を突き付け合うようなゲームの行方は紙一重だ。何をするにしてもリスクはつきもので、今回は勇気を持って断行したナポリに吉と出た。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。