今季のFC東京は苦戦?善戦? 代謝を図りながら手探りの実験は及第点…来季に真価発揮の可能性を秘めている
4-3-3へのこだわり、適材適所で起用しながら柔軟な姿勢も
アルベル監督は理想主義者で「シーズン当初は、味方と距離が離れている場合のロングボールを容認していたが、今は違う」と、コンセプトの共有を最優先にチーム作りを進めてきた。しかし一方で、この夜は「終盤横浜のサイド攻撃に苦しむのは予想できた。もちろん4バックで戦い続けるのが理想だが、こういう時に監督はリアリストであるべきだと思う」と、勝ち点1を死守する柔軟な姿勢も見せた。
4-3-3へのこだわりは顕著だが、そのなかでは適材適所も少しずつ進んでいる。長谷川前監督時代には、左利きの小川諒也を右サイドバック(SB)で使うような苦肉の策も見られたが、アルベル監督は右利きの長友佑都を本来あるべき右サイドへ回し、左はレフティーのバングーナガンデを抜擢。さらに右サイドでは多彩な仕掛けができる紺野をレギュラーに定着させ、開幕からルーキーの松木玖生を起用し続けるなど少しずつ代謝を進めてきた。
逆にセンターフォワード(CF)に固定されたディエゴ・オリヴェイラは本領を発揮できず、3トップのセンターに最適解を探せていないなど課題は残るが、短期間での無難な方向転換や総体的な改善については、まずまずの及第点が与えられそうだ。
「あとは来シーズン、クラブが効果的な補強をしてくれれば、もっと良いプレーを見せられる」
補強から参戦できなかった指揮官は、新シーズンを手探りで進んできたはずだ。その点でさまざまな実験検証を経た来シーズンは、真価を発揮できる可能性も秘めている。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。