日本代表MF田中碧がデュッセルドルフに不可欠な理由 「足もとでパスを回せ!」のジェスチャーでもたらした変化とは?

デュッセルドルフでプレーするMF田中碧【写真:Getty Images】
デュッセルドルフでプレーするMF田中碧【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】ハイデンハイム戦の後半からピッチに立った田中碧が攻撃の起点に

 中盤や前線の選手にとって試合中イライラが募ったり、どうしたらいいか分からなくなることの1つに、「いいポジションにいるはずなのにパスが出てこない」ことが挙げられる。

 特にロングボールが飛び交って、中盤ではルーズボールの奪い合いばかりになってしまうと、なかなか自分のイメージどおりに攻撃に関わることは難しい。もちろん試合の流れの中でロングボールは必要にもなるし、意図のあるロングボールは武器にもなる。だが相手が待ち構えているところに闇雲にボールを飛ばし続けることがチャンスメイクにつながるかというと、なかなかそうはならないのがサッカーだ。

 ハイデンハイム戦(1-2)の後半からピッチに立ったドイツ2部デュッセルドルフの日本代表MF田中碧は盛んに「足もとでパスを回せ!」というジェスチャーを繰り返しチームに送っていた。前半からデュッセルドルフはハイデンハイムのプレスに苦しみ、ビルドアップで攻撃のリズムを作り出すことができないでいた。

 ビルドアップ時にプレスを受けた時にはそれを受け流すための起点が必要になる。その点で後半、田中が入ったことでパスの出口は確実に増えた。例えば後半24分のシーン。自陣左サイドのワイドな位置でボールを受けると、相手のプレスにも慌てず、近くの味方へパスを当てて、そこへ相手のマークが行ったあと、ポジションを少し移してリターンパスをもらうことで相手のプレスを回避。それまで詰まってしまうと前に蹴り出すだけだったチームにつながりをもたらす。

「前回(出場時間)ゼロだったので、今回45分出て、流れは少し変えられたかなと思ってます。同点までは良かったですけど、そこから蹴り合いになるんで、そこでやられたって感じです」(田中)

 少しずつリズムを取り戻すデュッセルドルフ。セットプレーから同点にも成功した。ビルドアップからの展開も良くなってくる。ただそれでもなかなか、ゴールチャンスにまでつながらない。

 センターバックからサイドバックへ、サイドハーフへパスを入れてクロス。1つの形としてはありだが、相手が最も守りやすい形の攻撃を繰り返しては跳ね返されるシーンが続いてしまう。

「前半もそうですけど、真ん中がちょっとないんで。そうなると相手からするとやっぱり守りやすい。開幕戦だったり、そのあとの試合だったりいい時は、常に真ん中があるからよりサイドが活きる。そこを狙うことと、そこに立ち続けることとそこにパスを通すことは必要なこと」(田中)

 後半37分、そんなデュッセルドルフの攻撃に確かな変化を加えたのが田中だった。センターライン付近でボールを持ったセンターバックのクラーラーから斜めの位置でボールをもらい、ダイレクトでパスを送る。途中交代のアペルカンプ真大が反応して走りこむもわずかに届かず。とはいえ、試合を通してコンパクトに守っていた相手守備の中央を崩しかけたこのプレーが持つ意味は間違いなくある。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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