ACL“日韓戦”、なぜJクラブは劣勢だったのか? 韓国クラブに学ぶべきヒントとJクラブの伸びしろ
【識者コラム】ACL東地区は浦和の決勝進出で大団円、際立った全北現代の勝負強さ
埼玉県内で集中開催となったAFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区のノックアウトステージは、地元の浦和レッズが決勝進出を決める大団円で閉幕した。だが今回はあまりに浦和に地の利を初めとする幸運が集中し、むしろ際立ったのは3試合連続して延長戦にもつれながら意地を見せた全北現代(韓国)の勝負強さだった。
浦和はラウンド16から準々決勝まで中2日での試合を強いられたので、全北に比べれば1日休養日が少なかった。しかしラウンド16がジョホール(マレーシア)、準々決勝はパトゥム・ユナイテッド(タイ)との対戦となり、いずれも20時開始と涼しい時間帯の試合を5-0、4-0と圧勝した。もちろんジョホールは、川崎フロンターレや蔚山現代を退けてグループリーグ首位通過を果たしていたし、パトゥムもメルボルン・シティ(オーストラリア)や全南ドラゴンズ(韓国)を抑えて勝ち上がっているので侮れない相手だった。
だが結果的に日韓(JリーグとKリーグ)のライバルチームに比べれば、力の差は明白だった。それに対し韓国王者の全北は、最初の2戦が16時キックオフで、しかも大邱FC(韓国)、ヴィッセル神戸を相手に120分間を戦い抜き、浦和戦は「こんなことは生涯初めて」(キム・サンシク監督)という3試合連続しての延長戦だった。
準決勝ではフィジカルコンディション面で優位に立つ浦和が、最前線の松尾佑介、小泉佳穂から前がかりの守備を貫き完全に主導権を握った。全北はダヴィド・モーベルグを徹底して警戒しており、序盤にボールを受けた時は3人がマークに吸い寄せられた。左利きには珍しく縦への仕掛けからのクロスが威力を持つ特性も熟知しており、実際この夜のモーベルグの仕掛けはすべてカットインだった。その分、内側から縦に走る酒井宏樹への警戒が薄れ、全北の意表を突く11分の先制ゴールにつながった。
しかしここからの全北はしぶとかった。全北は日本での厳しい3連戦を想定して、むしろ後半勝負に徹していた。準々決勝の神戸戦ではグスタボ、準決勝の浦和戦ではマドウ・バロウと攻撃面で鍵を握る助っ人をベンチに置いてスタートし、また精力的な仕掛けが目立つムン・ソンミンもあくまで勝負どころまで投入を避けた。高い位置からのプレスもなく、相手にボールを握られながらもリトリートを徹底し中央を固めて失点を最小限に抑えて勝機を待った。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。