“ポスト大迫”問題を解消するには? 日本代表大型FWの系譜から占う“次世代の期待の星”
ザックジャパン時代は本格派FWが上手く確立されず
柳沢敦はより特殊なタイプで、177センチというサイズながら柔軟なポストプレーと動き出しを組み合わせて、58試合で17得点という結果以上の働きで、日本の勝利に貢献した。同時期に柳沢のライバルとして、時に2トップを組んだ西澤明訓も180センチと特別なサイズはなかったが、フィジカル的な強さと大胆不敵なフィニッシュで、大型ストライカーというイメージは強かった。
”ドラゴン”久保竜彦はさらにダイナミックなストライカーとして異彩を放つ存在だったが、やはり典型的なターゲットマンとは言い難い。釜本邦茂、三浦知良に続く歴代3位の得点数を岡崎慎司(シント=トロイデン)も、本格派のセンターフォワードというよりは2トップで衛星的に動きながらタイミングよくボックス内に走り込むタイプで、高い得点率を誇った”ザックジャパン”での基本ポジションは右サイドハーフだった。
”ザックジャパン”では前田遼一が1トップの主力を担っていたが、そこから2013年の東アジアカップ(現E-1選手権)で大活躍したテクニカルな柿谷曜一朗(名古屋グランパス)、伸び盛りだった当時の大迫勇也が台頭し、ブラジルW杯ではサプライズ招集された大久保嘉人が前線を引っ張るなど、本格派のFWが上手く確立されなかった時期でもあった。
ブラジルW杯後、短期に終わった”アギーレジャパン”を経て”ハリルジャパン”になると、やはりFW問題が継続されるなかで、2010年の南アフリカW杯と同じくMF本田圭佑を1トップに置く布陣で、アウェーのオーストラリア戦を乗り切った。そこからドイツで結果を出していた大迫が代表復帰し、前線の主力に定着。本番直前の”ハリル解任”で急きょ、2018年W杯で日本代表を指揮した西野朗前監督も1トップに大迫を起用し続けた。
”森保ジャパン”になってしばらく大迫が絶対的な主力であることは変わらなかったが、同時に”大迫依存”を払拭するチャレンジが必要な期間でもあった。大迫と同じ役割を求めるよりも、起用された選手が持ち味を発揮するという考え方だ。ただ、そのなかで186センチの長身でスピードもある鈴木武蔵(ガンバ大阪)、ポストプレーとボックス内の勝負強さを併せ持つオナイウ阿道(トゥールーズ)、”ビースト”の異名を持ち、サイズ以上に懐の深いキープ力を備えた林大地(シント=トロイデン)など、何人か候補は出てきているが、まだ”ポスト大迫”と呼べるインパクトのある存在は出ていない。
しかも、林は靭帯損傷で長期離脱が報じられており、カタールW杯への最終テスト的な意味合いが強い9月の代表活動に向けて、絶望的になってしまった。191センチの原大智は同じくベルギー1部シント=トロイデンで昨シーズン8得点を記録したが、スペイン2部アラベスで開幕時までポジションを掴めておらず、再移籍も取り沙汰されている。その環境次第でカタールW杯滑り込みも可能だが、難しい状況にあるのは確かだ。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。