甘くなかったJ1、最下位・磐田はなぜ低迷? ハイスペックな戦術、エース候補不発、補強失敗…大苦戦と“想定外”の真相
ジレンマに直面も若手起用と戦術の見極め ラッソ欠場でチーム状況は一気に下降線
伊藤監督もそうした違いは序盤戦で十分に感じ取っており、自分が本来植え付けたい基本スタイルと結果を出していくための対応のジレンマに向き合うこととなった。そうしたプロセスで導入されたのが、5-3-2というシステムだ。5-4-1に比べ、ボールを動かしながら全体で可変することが難しい代わりに、前からプレッシャーをかけてショートカウンターを狙いやすい。
夏場を迎える少し前から伊藤監督は5-4-1と5-3-2を90分の中で併用するようになった。ここには戦術的な理由もさることながら、やはり主力の体力的な不安があった。5-3-2で前からプレッシャーをかける戦い方はJ1の相手にも通用するが、体力的な消耗が大きく、少しでも間延びすると中盤の間を使って背後を取られてしまう。
そうした実情に直面しながらも、伊藤監督はハイブリッドに使い分けながら、チームのベースを引き上げる部分とオプションを増やす部分、そして結果を出すための対策という3つのテーマに向き合い、必要に応じた選手の入れ替えにも取り組んでいった。そのための“実験場”になっていたのがルヴァンカップと天皇杯という2つのカップ戦だ。
伊藤監督はここで、リーグ戦では主力として使えない若手を積極的に起用し、そうした選手の経験値を増やしながら、彼らのテストと戦術の見極めも行う。そこで評価を高めた選手がMF鹿沼直生やMF吉長真優で、ルヴァンカップで時にマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍を見せながら、リーグ戦にも徐々に絡んでいった。
もう1人のキーマンが“ラッソ”ことFWファビアン・ゴンザレスだった。昨年途中に加入したラッソは、エースFWルキアンがアビスパ福岡に移籍した後釜の1人として期待された。ただ、守備面や“静岡ダービー”での一発退場に見られたような球際のラフプレーに課題があり、開幕当初は浦和から期限付き移籍で加入した元日本代表FW杉本健勇の方が優先的にスタメン起用された。
しかし、代表復帰も視野に入れていた杉本が大ブレーキで、守備やポストプレーの貢献度は高いものの、得点が決まらないどころか、ゴール前での可能性もなかなか生まれないまま時間が過ぎていく。そうしたなかで、ちょうど5-3-2との併用を導入した時期からラッソが爆発的なパワーを発揮して、90分に1点以上の割合で得点を決めた。
衝撃的だったのが6月18日のサガン鳥栖戦で、ボールを握って組み立ててくる鳥栖を裏返す形でラッソが2得点を記録して、3-1で上位の相手を打ち破った。ただ、振り返るとこの試合をピークにチームのパフォーマンスは下降線をたどったように思う。1つは周りの期待に反して、ラッソがコンディション不良に陥り、翌節の川崎フロンターレ戦から5試合まるまる欠場を強いられた。この期間にチームは1分4敗で、得点はわずかに1だった。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。