吉田麻也は「欠かせない存在」 シャルケでいきなり主将マーク、ベテラン日本人戦士が“求められた”クラブ事情とは?

板倉の活躍であっさりと失点してしまうケースを払拭

 板倉が加入するまでそうした存在がいなかったシャルケは、時にファンがのけ反りたくなるほどあっさりと失点してしまうことが何度もあった。板倉の活躍でそうした問題とも別れを告げ、2部リーグでは安定した戦いぶりで順調に勝ち星を積み重ねられた。

 吉田にはそんな板倉が果たした役割を引き継ぐことが求められている。

 33歳。選手としてはすでにベテランの範疇に入っている。シンプルなスピード勝負では厳しい場面もあるかもしれない。だが、経験に裏打ちされた判断とポジショニングとコーチングがあれば、相手の動きを先読みして対応することはできる。まさにフランクフルトでMF長谷部誠がこれ以上ないくらい具体的に示してくれているではないか。

 加入するとすぐに吉田は欠かせない存在であることを証明してみせた。そして、シャルケには「ベテランDFがチームに大きな助けになる」という前例がある。

 シャルケが最後にブンデスリーガで好成績を残したのが2017-18シーズン。ドメニコ・テデスコ監督(現RBライプツィヒ)には全幅の信頼を寄せるブラジル人DFナルドがいた。守備組織を統率し、セットプレーでは得点源として貴重な働きを見せるナルドともに、このシーズンのシャルケは2位でフィニッシュし、翌シーズンのCL出場権を獲得している。伝説となったのは13節のドルトムントとのルールダービーだ。

 前半に4点をリードされるこれ以上なく最悪な試合展開ながら、ハーフタイムで吹っ切れたシャルケは後半怒涛の追い上げを見せる。連続ゴールで点差を縮めると、迎えたアディショナルタイム4分、右CKからのボールに誰よりも高く飛んでゴールを決めたのがナルドだった。

 シャルケにとって今季は、1部残留が目標になる。シンプルに抱える戦力を他クラブと比較したら楽観視はできない。そんなシャルケで吉田は第3キャプテンに指名されている。ケルンとの開幕戦ではキャプテンのMFダニー・ラッツァ、副キャプテンのFWシモン・テロッデがスタメンから外れたことで、吉田がキャプテンマークを巻いてピッチに登場した。かつてのナルドのように、最後尾からチームを支え、進むべき道を示し、苦しい時でもグッと踏ん張って前を向いて進んでいく姿を期待したい。その先にきっと1部残留という喜びがあることを信じて。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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