吉田麻也は「欠かせない存在」 シャルケでいきなり主将マーク、ベテラン日本人戦士が“求められた”クラブ事情とは?
【ドイツ発コラム】欧州での経験豊富なDF吉田麻也へ期待を寄せたシャルケ首脳陣
昨シーズン、シャルケは2部リーグで優勝を果たし、1年でのブンデスリーガ復帰を実現させた。2部最終節のニュルンベルク戦では数多くのファンがアウェーの地まで泊りがけで足を運び、試合終了後のグランドはシャルケファンでいっぱいに。ファンが見守るなか、シャルケの選手は優勝皿を高々と掲げ合っていたのを思い出す。夜遅くまでシャルケファンはニュルンベルクの旧市街でビールを飲み、クラブソングを歌い、仲間と誇らしげに語り合っていたものだ。
自分たちがいるべき場所に戻ってきたという高揚感がある一方で、シャルケの立ち位置はかつてのそれとは違う。経営規模は極端なまでに縮小されているという事実がある。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の常連だった頃のようにはいかない。膨れ上がっていた負債額は減ってはきているとはいえ、まだまだ完済までの道のりは遠い。
選手補強も難しい。昨季、マンチェスター・シティからレンタルで獲得し、昇格の立役者として活躍したDF板倉滉(→ボルシアMG)に関しては、獲得を希望しながらも金銭面でどうにもならなかった。CB(センターバック)のレギュラーとして活躍していたU-21ドイツ代表で生え抜き選手のDFマリック・ティアウもクラブを去ることになりそうだ。
ルーベン・シュレーダーSD(スポーツディレクター)は苦渋の選択を受け入れなければならないクラブ事情をこう説明する。
「我々はオファーが来たらそれを精査しなければならない。マリックがブンデスリーガでシャルケの顔としてプレーすることになるのだとしても」
さまざまな条件が最適に噛み合わなければチームにとって大切な存在となる選手を保持したり、獲得したりすることはできない。そんななか、首脳陣が高い期待とともに獲得に乗り出したのがDF吉田麻也だった。
ブンデスリーガ初参戦とはいえ、プレミアリーグ、セリエAでの経験は豊富。日本代表ではキャプテンとしての実績もある選手を“移籍金ゼロ”で獲得できたのはシャルケにとって非常に大きな価値がある。
必要だったのは守備のリーダーだ。常に冷静で、周囲にコーチングができて、チームの勝利のためにやるべきことを明確に理解している選手だ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。