“静岡サッカー”は本当に風前の灯火なのか 他県のレベル上昇も「普通のお母さんがうますぎ」な“王国”のリアルな姿
“リアル半沢直樹”清水社長も語るサッカー王国ならではの「大きな可能性」
ここまではどうしてもネガティブな話が多くなってしまったが、筆者としては静岡サッカーの未来に絶望しているわけではない。なぜなら“地盤”という意味ではサッカー王国の強みはまだ残っているからだ。
例えば、初めて静岡に来たJリーガーに話を聞くと、サッカー王国の片鱗に触れて驚いたというエピソードがよく出てくる。2017年から3シーズン清水に所属し、現在はJ2の横浜FCでプレーするGK六反勇治からは「近所の公園に遊びに行ったら、子供と遊んでいた普通のお母さんのサッカーがうますぎてビックリした」という話を聞いたことがある。
また日常的に取材に訪れるメディアの多さや、テレビやラジオでサッカーのことが話題になる頻度の多さに驚く選手も多い。大都市圏でタクシーに乗ってもサッカー選手と気づかれることはほとんどないが、静岡だと気づかれることが多く、サッカーの話を熱心にする運転手も多いという。
筆者は地元の父親サッカーのチームに入って草リーグに参加していたことがあるが、そのレベルもやけに高い。対戦相手の中に、高校時代は全国大会で活躍した経験がある選手が普通にいたりして「それ反則でしょ」とボヤきながらプレーしていた。
地域全体でのサッカーの浸透度、関心度、定着度といった面では、まだまだ大きなアドバンテージがあると感じている。もちろん「サッカー王国を復活させたい」という強い熱意を持つ指導者は今も非常に多い。
プロ野球の千葉ロッテマリーンズを見事に立て直した実績を持ち、“リアル半沢直樹”とも呼ばれる清水の山室晋也社長は、そうした地盤の強さに「大きな可能性を感じている」と常々語っている。
そんななかで今最も必要なのは、静岡のサッカー熱に再び火をつける強いチームの出現だろう。前述の山室社長は「(エスパルスを)Jリーグを代表するクラブにしたい」と言うが、もし清水や磐田、あるいは今はJ3の藤枝MYFCやアスルクラロ沼津がそうした存在になれば、静岡県民もプライドを取り戻し、くすぶっていた炎が一気に燃え上がり、底辺の拡大や強化も大いに加速されるだろう。
問題は、そんなチームが本当に出てくるのか、どれだけ時間がかかるのかというところだが、その意味でも王国の底力が発揮されることを信じたい。
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(前島芳雄 / Yoshio Maeshima)
前島芳雄
まえしま・よしお/静岡県出身。スポーツ専門誌の編集者を経て、95年からフリーのスポーツライターに。現在は地元の藤枝市に拠点を置き、清水エスパルス、藤枝MYFC、ジュビロ磐田など静岡県内のサッカーチームを中心に取材。選手の特徴やチーム戦術をわかりやすく分析・解説することも得意分野のひとつ。