激闘の神奈川ダービー、横浜FMマスカット監督が黒星でも「今季ベスト」と評した訳

川崎と横浜FMの一戦は激戦に【写真:Getty Images】
川崎と横浜FMの一戦は激戦に【写真:Getty Images】

【J番記者コラム】川崎に敗れるも、両者のゴールシーンはいずれも「ワールドクラス」

 10戦ぶりに喫した黒星もなんのその。ケヴィン・マスカット監督は8月7日の川崎フロンターレ戦後、強気な姿勢を崩さず言い放った。

「自分たちはしっかり支配したサッカーをしたと思う。勝ちにこだわるのはもちろんだし、負けようと思ってサッカーなんてやらない。その中で自分たちの内容を出せたと思うし、自分が見た中でも今シーズンのベストなんじゃないかというサッカーを選手たちは披露してくれた。その選手たちを誇りに思う」

 強者を相手に回しても、一切怯むことなく自分たちのサッカーを貫いた。果敢に最終ラインを押し上げ、後方からビルドアップに挑み、アタッキングサードで打開を試みる。横浜F・マリノスのクオリティーが今季ベストだったとは断言できないが、川崎とともに演じた濃密な90分間はリーグ全体を見渡しても今季ベストゲームと呼ぶにふさわしい内容だった。

 図らずも、戦前にキャプテンのMF喜田拓也が「Jリーグを引っ張っていけるようなクオリティーの高いゲームを見せられれば、各方面にいい影響を与えられると思う。日本サッカーも捨てたもんじゃないな、というゲームにしていきたい」と語ったとおりであった。

 その証左となる得点場面はいずれもワールドクラス。今後も語り継がれるべき瞬間の数々だった。

 FWレアンドロ・ダミアンの先制点をアシストしたDF山根視来のクロスはダイレクトで送ったアイデアと精度が素晴らしく、FW仲川輝人が決めた同点弾カウンターはFWエウベルとともに一切の無駄がなかった。決勝点を決めたDFジェジエウは足をつっている状態でありながらながらも迫力十分のヘディングを放ち、スタジアムを揺らした。

 敗れはしたものの、横浜FMは顔を下げる必要などない。トラッキングデータのスプリント回数を比較すると、横浜FMの129回に対して、川崎は141回と上回っている。コロナ陽性者の続出に苦しむ前年度王者がこの一戦にかけていた覚悟を示す数字と認めざるをえないが、内容を鑑みれば横浜FMがそれだけ「相手を走らせた」という見方もできる。

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藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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