実質13人の川崎は強行開催に臨まなければならなかったのか 浦和戦はリーグの価値が問われる一戦に

実質13人体制で浦和戦に挑んだ川崎【写真:Getty Images】
実質13人体制で浦和戦に挑んだ川崎【写真:Getty Images】

【識者コラム】新型コロナウイルス陽性者が多数出たためベンチメンバーでフィールド選手は2人

 鹿島アントラーズに続く3連覇に挑戦している川崎フロンターレにとっては、全ての不運が押し寄せたようなシーズンとなった。

 結局ここまでベストメンバーで戦えた試合がひとつもない。最後尾で不可欠の存在だったジェジエウがようやく復帰をした7月末の浦和戦では、故障と新型コロナウイルス感染者が相次ぎ実質13人体制で臨む緊急事態に見舞われた。

 もちろん浦和戦は前半で2ゴールを決められているので、人数不足が敗因の全てではない。浦和の先制点は、右サイドでレフティのダヴィド・モーベルグが縦に仕掛けて右足でクロスを送り、ボランチの伊藤敦樹が飛び込んで頭で合わせた。序盤からモーベルグと対峙した橘田健人は立て続けにクロスを許しているが、同様のシーンは先日のパリ・サンジェルマン(PSG)戦でも何度か見られ、PSGは中央が慌てることなく対処していた。

 右サイドに張るレフティーと対峙すれば、守備側が利き足での仕掛けを優先するのは仕方がない。そこで先制シーンではマルシーニョも戻り守備側が数的優位を作ったが、橘田との意図が噛み合わずモーベルグに縦に運ばれてしまった。もっともこの夜の浦和は、序盤から飛ばして川崎の弱点を巧みに突いた。2点目も川崎のアンカーに起用されたシミッチの脇のスペースを活用し、松尾佑介がフォローした伊藤との連係を活かして決めた。つまりここまで浦和は、シナリオ通りに会心のゲーム運びを進めており、必ずしも川崎の不運な状況に乗じたとは言い切れなかった。

 だが今夏でも極めつけの熱帯夜となった後半については話が別だ。川崎のベンチに控えていたフィールドプレイヤーは宮城天と山村和也のみ。他に3人のGKが待機していたが、彼らは当然不測の事態に人数合わせで投じるために準備をしていたに過ぎない。本来ベンチに控えが埋まっていれば、後半開始から3枚替えもありえる展開だった。しかし、悪夢が重なるような事態に遭遇し、鬼木監督も慎重にならざるを得なかった。ようやく決定機にタッチミスを繰り返していたマルシーニョを下げて宮城を送り込んだのが後半28分。その5分後には山村和也を前線に配しレアンドロ・ダミアンとの2トップという苦肉の策に出る。

 それでもPKで1点を返しているから、もう少し選択肢があれば流れが変わっていた可能性はあった。

 確かにシーズンを通して戦うリーグ戦では運不運は付きもので、昨年のガンバ大阪などはとんでもない過密日程を強いられることになった。だから優勝戦線を大きく左右する一戦と特別扱いするわけにはいかない。またコロナ禍という特殊な条件下なので、機構側が簡単に中止にせずに進めていく姿勢を貫きたいのも理解はできる。しかし、とりわけ暑さが厳しさを増す真夏開催という特殊事情を抱えたJリーグだけに、5人交代制が定着し総力戦の様相が強まる傾向を鑑みても、現行の規約がリーグの価値を損なうものでないのか、検討の余地はありそうだ。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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