利き足へのこだわりは不要なのか サッカー少年たちをミスリードしかねないテーマ…JFAは真剣に検証してみるべきだ
武器への確信が持てる前に両足使用を求めることが、本当に上達につながるのか
リオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン/PSG)が右足でシュートを打つことも、キリアン・ンバッペ(PSG)が左足でクロスを送ることもあるが、それは成長段階で利き足を使いこなすための軸を確立し、その脅威を十分に知らしめてからの話だ。つまり世界のトッププレイヤーは、むしろ一定レベルに到達するまでは徹底して利き足という武器を磨き勝負をしている。そこに着目したのが、川崎フロンターレのジュニアチームを連れて世界大会を経験した髙崎康嗣・現J3宮崎監督だった。そしてこの髙崎氏の指導によりやがて開花していくのが三笘薫(ブライトン)、田中碧(デュッセルドルフ)、板倉滉(ボルシアMG)、三好康児(ロイヤル・アントワープ)らの選手たちだった。三笘のドリブルを見ていても、大半が右足でタッチしており、利き足を大切にしてきた髙崎氏の指導の影響は明白だ。
ところがJFAでは、利き足さえも判別できない子がいる始動期に「両足で扱う楽しさを」と訴えかけている。そもそも利き足という軸さえ定まらない時期に、難易度の高い逆足も使うことを楽しいと感じる子供がいるかが疑問だが、おそらく肝心の武器を磨き上げる前に苦手克服のテーマも掲げてしまう弊害は少なくない。ある年齢別代表のトレーニングでは、典型的なレフティーに左足のアウトサイドではなく、右足に持ち替えてのサイドチェンジを練習させていたという話も漏れ聞く。だが実は時間とスペースが狭まった今でも、トップシーンでプレーする選手たちは90%を超える確率で利き足を使っている。短時間でミスが許されないから、相手に奪われずどこへでも動かせるポイントに止める必要があり、そのためにはいかに利き足でプレーするかの効率化が求められる。
髙崎氏は「ネイマールがサントスからバルセロナへ進出し、逆足使用の頻度が激減した」と感じたそうだが、青森山田高校時代に「苦手克服」をテーマとして逆足強化を求められて来た武田英寿(大宮アルディージャ)やバスケス・バイロン(東京ヴェルディ)も、プロでは利き足に絞って勝負をするようになり違いを見せられるようになりつつある。利き足はプロ選手の商売道具であり武器だ。育成段階で自分の武器への確信が持てるようになる前に両足使用を求めることが、本当に上達につながるのか。サッカー少年たちをミスリードしかねないテーマだけに、JFAは真剣に検証してみるべきだと思う。
本当に器用なのは、状況に応じて左右両足を使い分ける選手ではなく、どんなに追い込まれても利き足を自在に扱える選手ではないのだろうか。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。