利き足へのこだわりは不要なのか サッカー少年たちをミスリードしかねないテーマ…JFAは真剣に検証してみるべきだ

PSGのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ【写真:徳原隆元】
PSGのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ【写真:徳原隆元】

【識者コラム】ステージが上がるほど窮地に逆足で逃げるようなプレーに遭遇することはない

 E-1選手権・中国戦の残り10分頃だった。中国側のバイタルエリアで自陣ゴール側を向いたレフティーの野津田岳人(サンフレッチェ広島)が、右足でダイレクト処理をしてボールを奪われた。この流れから中国はコーナーキック(CK)を得て、最終的にはフリーのチュー・チェンジェがエリア内で狙う千載一遇の決定機につなげている。

 また最初の香港戦でも、左サイドバックの杉岡大暉(湘南ベルマーレ)が自陣でプレッシャーを受けると、慌てて不得意な右足でのキックを選択して相手にプレゼントボールを送ってしまった。

 先日、日本サッカー協会(JFA)は今後の日本サッカーの向かうべき指針を「Japan’s Way」というタイトルでまとめ発表した。これまでJFAが掲げた目標と言えば、2050年までにワールドカップを掲げるという代表強化が先行気味だったが、今回はそのためには日本サッカー界がどんな理想形を求めていくべきか、まで踏み込んだ内容になっている。

 しかしそのなかで1点、疑問を覚えた箇所がある。サッカーの始動期に当たる5~8歳に「左右両足で扱う楽しさを身につける」ことを強調していることだ。一般的に多くの子供たちは、まず利き足だけでボールを扱おうとする。あるいは利き足と逆足の区別もつかず、状況に応じて都合の良い足で処理をしようとする子供もいる。

 だが現実に世界で活躍するトッププレイヤーの大半、とりわけ南米の名手たちは、プロになるまでほぼ利き足1本で勝負してきている。例えばアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)は、Jリーグでも複数の選手に囲まれれば、間違いなく右足1本で切り抜けている。ウスマン・デンベレ(FCバルセロナ)のように稀な例外もあるが、大多数のトップレベルの選手たちは自分の商売道具に当たる利き足に絶対の自信を持っていて、ステージが上がるほど窮地に逆足で逃げるようなプレーに遭遇することはない。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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