ビーレフェルト奥川雅也、主将との“鼓舞”に感じさせた信頼関係と中心選手としての自覚
1年での1部昇格に向けて意欲
今季、ウリ・フォルテ新監督を迎えたビーレフェルトは、プレシーズンマッチでなかなかの印象を残していた。ギリシャ1部の強豪オリンピアコスに3-1、昨季オランダ1部で準優勝のPSVには4-0の快勝劇を見せている。選手たちもそれなり以上の手ごたえでシーズンに臨んだはずだ。
だが、やはりテストマッチと公式戦は違う。ザンドハウゼンの迫力あるプレスを前にビーレフェルトはボールを前進させることができない。FWクロスへのロングボールだけではチャンスを作り出すことは難しい。奥川が話すように、退場者を出して1人少なくなったことで責任感が増したのか、各選手の運動量が増え、好チャンスが作れる時間帯があったのは持ち帰れる好材料ではある。勝ち切ることは難しくても、引き分けで勝ち点1を手にすることはできたはずだ。
「2点目を取られた時もそうですけど、守備のやり方が上手くできていなかった。(守備ラインを)下げているにもかかわらず、あれだけフリーでやられるというのは……。もうちょっと、ちゃんとサッカーをしないといけないなと」
セットプレーやロングボールで強引に奪われたわけではない。ペナルティーエリア付近にラインを引いて、人数は揃っていて、それなのにセンターからのパス交換で崩されて、最後はエリア内からフリーでザンドハウゼンのDFダビド・キンソンビにゴールを許してしまう。チームとしての安定感はまだこれからという印象を残している。
それだけに中心選手として奥川に懸かる期待は大きい。興味深かったのは、得点後のシーンだ。喜びのガッツポーズとともに自陣に戻った奥川が、アシストをしたクロスの元へゆっくりと足を運ぶ。キャプテンであるクロスは力強く拍手をしながら歩み寄ると奥川を抱き寄せ、背中をバンバンと叩き合って離れていった。お互いに確かな信頼関係があることを感じさせられる。奥川もチームを助けたい意思を滲ませる。
「僕たちのやりたいサッカーというのがまだ上手く表現できていない。去年とはまた違うサッカーをしているので、そこにしっかりと貢献したいなと思っています。誰もが思っていることだと思いますけど、1年で上に(ブンデスリーガに)戻ることが一番ですし。タスクを担って、チームを助けるプレーができるように頑張りたいと思います」
そこには中心選手としての確かな自覚と責任感がある。持ち前の決定力の高さを存分に発揮し、これまで以上にチームを引っ張る存在となってくれるはずだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。