W杯強豪国のスタイルは「伝統的ではない」 ドイツは“スペイン化”からの揺り戻し…一定も、一貫もしていない代表チーム“らしさ”
【識者コラム】代表チームのスタイルとは? 強豪国の特徴に注目
かつて代表チームの特徴は国によってかなりはっきりしていた。
外国籍選手もいるクラブチームと違って、代表チームはその国の選手で構成される。その国の気候、文化、身体的な特徴などによって、固有のプレースタイルが形成されていたからだ。ブラジルはブラジルらしく、ドイツもイタリアもイングランドもその国らしさが明確だった。現在は代表チームのプレーがどこも似通ってきていて、以前ほど「らしさ」は薄らいでいるが、それでもそれぞれの国らしさは残っている。
ただ、代表チームの「らしさ」は実はそれほど一定でもないし、一貫してもいない。
第1回ワールドカップから毎回出場のブラジル代表は最多5回優勝の強豪国中の強豪で、プレースタイルは一貫しているイメージだが、それなりの揺れは経験している。1990年イタリア大会では、リベロを起用した3-5-2システムだった。ラウンド16でアルゼンチンに不覚をとり、セバスチャン・ラザローニ監督は「守備的すぎる」と散々非難された。
次の94年アメリカ大会は3バックと4バックをボランチの移動で変化させる可変式で優勝したが、このときも優勝したのに一部で批判された。カルロス・アルベルト・パレイラ監督、マリオ・ザガロTD(テクニカルディレクター)の二頭体制だったのだが、次の98年大会のザガロ監督は攻撃的な編成で準優勝、2006年のパレイラ監督もロナウド、ロナウジーニョ、カカ、アドリアーノを並べる攻撃偏重だった(準々決勝で敗退)。94年で優勝したのに批判されたので、意地になったわけではないだろうが、ブラジルらしくはあったが優勝はできなかった。
テクニックと攻撃力が印象的なブラジルでもその時々で濃淡はある。「守備的だ」と批判される時でも他国に比べればそうでもないのだが、ブラジル国民は相当攻撃的かつ芸術的でないと納得してくれないのだ。
ライバルのアルゼンチンは「らしさ」が2つある。しかもそれが両極端。78年大会に優勝したセサル・ルイス・メノッティ監督と86年優勝のカルロス・ビラルド監督、攻撃型と守備型のスタイルはメノッティ派、ビラルド派と呼ばれて世論を二分していた。どちらもアルゼンチンの伝統を踏まえているのだが、水と油といっていいぐらい考え方が違う。
その後、マルセロ・ビエルサ監督がメノッティ派とビラルド派を統合した格好になるのだが、リオネル・メッシの登場からはビラルド的なスタイルになっている。ディエゴ・マラドーナとメッシというスーパータレントがいる場合、守備を固めてスーパースターの一発に賭けたほうが効率的という事情だろう。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。