約5000分の2となる異色の転身 30歳で引退→審判へ、セカンドキャリアで目指すサッカー界の普及と強化
レフェリーは「ゲームをどれだけ素晴らしいものにできるかが目的」
現役時代は、新人研修で見た時以来、競技規則に目を通すこともなかったという御厨だが、改めて勉強を始めると、細かいルールについて勘違いしたままプレーしていたことに気づかされるのも少なくなかったという。
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「言葉は悪いかもしれませんが、現役の時は審判に対して『なんでこの人は自分のプレーを邪魔するんだろう』と思うこともありました。試合中は熱く戦っていましたが、ファウルをしに行こうとしているわけではなかった。ファウルをしないでボールを奪おうとしているのに『ファウル!』と言われると、どうしても自分のプレーの邪魔をする人と感じてしまう部分はありました。でも、自分が無知だったゆえに勘違いしていたこともあったと思います。だからといって、Jリーグの全選手がレフェリーのように全ルールを一言一句覚えるべきだとは思いません。審判に任せるところは任せればいい。ただ、勝負に直結するところだけは、知っておいたほうが得かもしれません。少なくとも、損をすることはないでしょう」
2019年からはJリーグ担当主審になり、翌2020年にはJ2の試合も担当。2021年からはJ1でも笛を吹くようになった。立場が変わっても、ピッチに立つときの心構えには大きな変化はないという。
「誰のためにプレーをするのか、誰の為にジャッジをするのか。僕はお客様のためです。お客様が求めているのは、スリリングな試合であったり、一生懸命に頑張る選手の姿、公平、公正な試合、円滑なゲームを求めています。お客さんのために、自分が審判として、選手たちと一緒にどう表現して、その方たちが楽しくなるようなゲームをお届けするかを考えています。それは選手の時と、そんなに変わりません」
過去にJ2通算159試合に出場するほど、選手としてJリーグのピッチに立って、審判員になった人はいない。Jリーガーという立場を経験しているだけに、御厨が選手と接する際、過緊張したり、萎縮したりすることはない。さらに、選手たちのプレーの背後にある意図を汲み取れるところも強みだろう。そのうえで、大事にしているのが選手たちとのコミュニケーションだ。
「レフェリーは競技規則の専門家であり、競技規則はすべて頭に入っています。そこで選手と議論になることもありますが、正論で打ち負かすことは目的ではありません。ゲームを、どれだけ素晴らしいものにできるかが目的です。どうやって納得してもらい、次に進んでいくか。選手は感覚的に『このくらいの強さで当たったから』『このタイミングで当たったから』イエローじゃないかと判断しますが、僕たちは事象を競技規則に当てはめながら、イエローカード、過剰な力であればレッドカードとジャッジをします。ただ、選手にジャッジの理由を伝える際は、『私から見たら、イエローは厳しいと思った』というように、もう一度、感覚的に戻して伝えるようにしています。それが一番、伝わりやすいと思うからです」