欧州挑戦1年目で“キャリアハイ”――元広島MF川辺駿の現在地と新たな気づき「海外では『結果、結果』と言われるけど」

攻守両面で存在感「飛び出した先でのクオリティーというのは自分の持ち味」

「チームのためにプレーをする」という点で川辺の印象的なプレーを見たのは、今年5月12日に行われた第34節バーゼル(1-1)との一戦。残留争い中のグラスホッパーにとっても、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)予備選出場権争いの渦中にいるバーゼルにとっても勝ち点が必要な試合だった。

 前半に上手く先制したグラスホッパーだが、後半32分にMFクリスティアン・ヘルクが2枚目のイエローカードで退場処分となり、リーグ2位バーゼル相手に1人少ない戦いを余儀なくされてしまう。押し込まれ続けながらも凌いでいたなか、守備でミスが重なり後半39分に失点し、結局引き分けに終わった。

「前半ちょっと自分たちが前から行って相手に蹴られて、セカンドボールを相手に拾われる場面が多かったんですけど、拾われてからの守備は良かったと思うし、決定機を自分たちの周りの選手にはやらせなかった。ただ、1人少なくなった状況で、自分たちが勝ってる状況っていうのをコントロールしなきゃだめだった」

 強豪相手に終盤1人少ないという難しい状況で、川辺は2ボランチの一角で状況に応じたインテリジェンスの高いプレーを披露し、攻守両面において起点となった。プレーに連続性があり、次の状況を予見しながらのポジショニングに優れている。アクション後、次の動きへの移行が素晴らしく速い。空中戦で競った直後にセカンドボールへと反応するのは簡単ではないが、川辺はスムーズな対応を見せていた。競り合いにも強さを発揮し、2メートル近い相手に身体を入れてボールを奪取。加えて、チャンスと見るやゴール前へと何度も飛び込むなど、持ち味を高いレベルで表現している。

「得点に絡んでいくことが重要だと思うので、守備ではボックスを締めつつ、カウンターでは自分もどんどん出ていかないといけない。そして飛び出した先でのクオリティーというのは自分の持ち味だと思っています」

 最終節までギリギリの残留争いとなったが、最終的にグラスホッパーは見事残留を果たした。主軸として川辺の果たした貢献は多大だ。さまざまな刺激を受けて、さまざまな経験を積んだ川辺の欧州物語は、まだ始まったばかりだ。

[プロフィール]
川辺駿(かわべ・はやお)/1995年9月8日生まれ、広島県出身。広島高陽FC―サンフレッチェ広島Jrユース―サンフレッチェ広島ユース―サンフレッチェ広島―ジュビロ磐田――サンフレッチェ広島―グラスホッパー(スイス)。2014年に広島のトップチームに昇格。15年に磐田へ期限付き移籍して頭角を現すと、18年から広島へ復帰して主力としてフル稼働し、21年7月からグラスホッパーへ移籍。22年1月、ウォルバーハンプトンへ3年半契約で加入が決まり、同シーズンは期限付き移籍の形でグラスホッパーで引き続きプレーした。21年3月25日の韓国戦でA代表デビューを飾り、同年6月7日のタジキスタン戦で代表初ゴールをマークしている。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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