グラスホッパーDF瀬古歩夢、スイスで感じた“日本との差”「こっちの方が圧倒的にある」 掴んだ新たな感覚と「自分の間合い」
求めていた震える場所「こういう状況だからこそ成長できる部分もある」
バーゼル戦では相手にほとんどチャンスを与えず、悪くないパフォーマンスを披露していただけに、ほんの1つの躊躇が失点につながって点だけが悔やまれる。
後半39分だ。グラスホッパーは味方に退場者を出していたものの、その時点でまだ1点リードしていた。相手陣内から飛んできたロングボールに対応しようとした瀬古だが、蹴ったボールが背中を向けながら下がってきた味方選手に当たって跳ね返り、瀬古はそのまま味方と交錯。こぼれ球を拾ったエスポージトが抜け目なくシュートを決め、手痛い同点ゴールを献上してしまったのだ。
「すごくイージーなミスだったんですけど。1つの声で回避できたことだった。時間帯的にもあと10分ぐらい。自分の感覚的には越えてくるだろうなっていうのがあって。はっきりクリアしておけばいいし、それでなんの問題もなかった。それが中途半端なクリアになって、重なる形になって」
残留争い中だったチームに貴重な勝ち点3をもたらすことができなかっただけに、悔しさは相当なものだったはずだ。それでも強豪相手の勝ち点1は悪いものではない。大事なのは、次へどう生かすかだ。1つのミスがクラブの行く末さえも決めかねない残留争い。そうした震える場所こそが瀬古が求めていたものだった。
「選手としてね、こういう状況だからこそ成長できる部分もある。残留が懸かっているなかで戦うっていうのは選手としても、あまり経験できることではないと思う。だけどこういう状況でああいったミスをしてしまったら、1つのミスで信頼をなくす可能性もあるし、もしかしたら次は出られないかもしれない」
控室に戻ろうとした瀬古が、空に向かって「勝てなくてすいません!」と大きな声で叫んだ。熱い選手なのだ。戦う男なのだ。口だけではない。この男が言うならば「来季は3位以上!」という目標も現実味を感じさせられる。
今季目標だった1部残留は果たした。スイスリーグ優勝27回、UEFAチャンピオンズリーグ、UEFAカップの常連だった古豪グラスホッパーをまたスイスの強豪へと導く活躍を期待したい。
※第2回へ続く
[プロフィール]
瀬古歩夢(せこ・あゆむ)/2000年6月7日生まれ、大阪府出身。中泉尾JSC―セレッソ大阪U-12―セレッソ大阪U-15―セレッソ大阪U-18―セレッソ大阪―グラスホッパー(スイス)。17年5月24日のルヴァンカップ第6節・ヴィッセル神戸戦でクラブ史上最年少の16歳11か月でトップチームデビューを飾り、19年5月4日の第10節・松本山雅FC戦でJ1デビュー。同年のU-20ワールドカップメンバーに選出された。20年には、史上4人目となるルヴァンカップのニューヒーロー賞とJリーグのベストヤングプレーヤー賞をダブル受賞し、22年1月にグラスホッパーへ完全移籍した。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。