ドイツ代表、人気低迷→回復の舞台裏 ピッチ内外で魅力満載、フリック体制下で進む“プロジェクト”とは?
【ドイツ発コラム】代表チームへの関心低下が顕著も、現体制へ移行後に変化
ここ最近、ドイツ代表戦はファンが殺到するコンテンツではなくなっていた。2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)でのグループリーグ敗退という結果のほか、チケット代の高騰、ファンサービスの低下など、さまざまなものが理由として挙げられる。
チケットは完売にならないどころか、大きなスタジアムだと半分くらいしか埋まらないことも。ドイツサッカー協会は雰囲気を大事にするために、2~3万人収容のスタジアムで代表戦を行う時期もあった。
そんな代表戦がこの6月シリーズではミュンヘンでのイングランド戦も、メンヒェングラートバッハでのイタリア戦も満員に。アップで選手がピッチに入場するとファンからの大きな歓声が聞こえてくる。試合前にはゴール裏に壮大なコレオが描かれ、スタメン発表では大きな声で選手の名前を叫ぶ。W杯イヤーだから当たり前、なんてことはない。
代表週間になると選手数人がZOOM(オンラインWeb会議サービス)を使ってファンの質問に答える企画が行われたり、公開練習が行われたりと、ファンに「僕らの、私たちの代表」とまた思ってもらえるように選手も、監督も積極的に関わるようになってきているというのも1つの要因だろうか。
とはいえそれがメインなわけではない。どれだけサービスがよくなってもピッチ上で繰り広げられるサッカーに魅力がないとファンの足も遠ざかる。魅力というのは華やかでなければならないわけではない。チームのために動きを止めることなく走り、精力的に戦うこと。チームとしての狙いをはっきりと持ち、その中で選手が自分のパフォーマンスを発揮していくこと。ファンはそうした選手の本気を感じる試合が見たいのだ。
まさにハンジ・フリック監督はファンがアイデンティティーを感じられるようにチーム作りを進めている。就任以来13戦無敗という結果だけではなく、選手がみんなこの代表チームのために尽力したいという気持ちが感じられるプレーが多く見られる点が高く評価されている。
大会を制するチャンピオンチームは絶対的な守備が必要不可欠だというのは歴史が証明している。5月末にフライブルクで行われたドイツサッカー協会、プロコーチ連盟共催の国際コーチ会議で、U-21代表コーチのダニエル・ニジェンスキが興味深い講義をしていた。
「チームスポーツとして考えた時に、“守備への欲求”を共有できることが大事になります。守備を頑張れと伝えるだけではなく、守備が大事と話し合うだけではなく、どんな守備がどれほどの価値を持つのか、というのをしっかりと共有する。そして、そうしたプレーが出た時にはみんなで声を掛け合って鼓舞し合うことでチーム全体の守備に関するダイナミックさにアプローチすることができるのではと考えています」
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。