柏×神戸の一戦に見た「成功者」と「野心的なチャレンジャー」の違い キーワードは“競争の精神”
神戸は不運な面もありながらも、大幅な爆発力は見込めず
逆に、シーズン序盤で指揮権を引き継いだ神戸のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、試行錯誤を続けている。むしろ総体的に見れば、神戸のポゼッションは6割を超え、動きの質も量も柏に見劣りしたわけではない。
だが、指揮官は「前半準備したことがはまらず、守備も機能しなかった」ことを最大の敗因と挙げた。つまり5-3-2でスタートした前半で主導権を握り切れず、先制しながら逆転されてしまったことが最後まで響いたと考えているようだった。後半からは4-2-3-1に変更し反撃に転じたわけだが、最初から攻撃的な特徴を信じ切れず「前半のプランが足かせになったのかもしれない」と反省の弁を残した。
率直に最下位で折り返した神戸は、内容的には柏とほぼ互角の攻防を見せた。だが接戦を勝ち切れず、リーグ最多失点の背景には、明らかに元ベルギー代表トーマス・フェルマーレンの引退や、セルジ・サンペールの離脱がある。
一方でリーグ随一の予算を武器に、クラブはレアル・マドリードのような補強を続けてきた。内外ともに結果を出した熟達者ばかりを集めたわけだが、逆に経験値の高いすでに成功した選手たちに大幅な爆発力は見込めない。逆に国際的には無名の柏のマテウス・サヴィオは、挑戦者意識を剥き出しにイニエスタやボージャンから果敢にボールを奪うと、カウンターへとつなげていた。
柏と神戸の一戦は、まさに成功者と野心的なチャレンジャーの戦いだった。もちろんこの一戦に絞れば、神戸は多分に不運だった。しかしどちらのチーム作りが有効なのかは、ここまでの成績が如実に物語っている。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。