柏×神戸の一戦に見た「成功者」と「野心的なチャレンジャー」の違い キーワードは“競争の精神”

柏×神戸の一戦に注目【写真:Getty Images】
柏×神戸の一戦に注目【写真:Getty Images】

【識者コラム】柏は近年主力が去るも、危機意識が共有されて新鮮な競争がスタート

 昨季3位のヴィッセル神戸は優勝候補の一角に挙げられ、15位の柏レイソルは「降格候補の筆頭」(ネルシーニョ監督)だった。だが、6月18日に行われた前半戦最後の試合で両者は直接対決し、結果的には柏が3-1の快勝。柏は4位で折り返し、神戸は最下位に沈んでいる。

 かつて東京ヴェルディや柏の強化責任者としてネルシーニョ監督と仕事をして来た小見幸隆氏によれば、「彼は個人名を出して補強の要望をして来たことがなかった」という。標榜する全体像は告げるが、基本的に補強は強化部任せ。裏返せば、どんなメンバーでも与えられた戦力でやり繰りできる泰然自若として姿勢は変わらなかったそうだ。

 柏からは、ここ数年で主力選手たちが次々に去って行った。オルンガ(アル・ドゥハイル)に始まり、江坂任(浦和レッズ)、クリスティアーノ(V・ファーレン長崎)、中村航輔(ポルティモネンセ)、瀬川祐輔(湘南ベルマーレ)、山下達也(セレッソ大阪)らの主力組どころか、あとを追う神谷優太(清水エスパルス)や仲間隼人(鹿島アントラーズ)まで移籍して行った。だがその分だけフレッシュな戦力にチャンスが巡って来て、チーム内で危機意識が共有され、また新鮮な競争が始まった。

 ネルシーニョ監督は、まず明確な目標を設定して「長いようで短いシーズンを優位に進めるにはスタートダッシュが重要だと口を酸っぱくして言い続けてきた」と言う。その結果、「全員が監督の要求に応えようと、よく走り献身的なプレーを続けている。前に出ていく守備ができているし、カンターも積極的に挑戦している。そのうえで勝つことで、みんながすごく自信をつけてきた」と、この夜移籍後初ゴールを決めた武藤雄樹が振り返った。

 実際、神戸戦は前半戦でチームの攻撃を牽引してきた細谷真央がU-21日本代表の遠征で不在だったが、代わりにチャンスを掴んだ森海渡が最前線でボールを引き出し、その森に代わって出場した武藤雄樹がダメ押しの3点目を決めた。サブも含めた競争が、しっかりとチーム力を支えている証明だった。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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