久保建英、伸び悩み打破の鍵は「脱レアル」 現地記者が3つの視点から分析…付きまとう“2大看板”とベストの選択とは?
経験面で久保ほど優秀な選手は少ない スペインサッカーのマスターコース実技編中か
次の視点、経験の面ではどうか。この角度から見ると久保ほど優秀な選手はそれほどいない。6月4日に21歳になったばかりで、スペイントップリーグで3年、計94試合に出場している。
ほかの有力選手、例えばバルセロナ下部組織時代の同僚、FWアンス・ファティは同じく19-20のトップリーグデビューだが、怪我が多くここまで計41試合の出場にとどまっているし、今後スペイン代表を背負って立つと目されるMFペドリも昨年夏の欧州選手権と東京五輪の掛け持ちの影響を受けた格好で今季2度にわたって怪我で長期離脱、今季はリーガ12試合(昨季と合わせてリーガ49試合)の出場にとどまっている。
同じくバルセロナ所属で将来が期待される17歳MFガビは今季リーガ34試合に出場しているが、デビュー初年で実労は1年。プレーの積み重ねという点では、現状で久保の後を追っていることになる。
経験とは積み重ねて肌で感じるもので、将来への投資と見ることができる。いますべてを結論付けるのではなく、もっと長い目で見て現在やっていることが未来に役に立つか、ということだ。いくつもの要素が絡み合い長期的かつ総合的に判断するもので、もしかすると数値化しにくいものなのかもしれない。
これはまったくの私見だが、今季さらに昨季も含めた2シーズン、久保はスペインサッカーのマスターコース実技編を受けているのではないか。つまり彼は今、サッカーとは技術、戦術、フィジカル以外にも重要な要素がまだまだあるというのを学んでいるということだ。
一例を挙げるなら、今季のマジョルカはおかしな形で1部残留を成し遂げた。残留争いの天王山と目されていた、本拠地での35節グラナダ戦に2-6と大敗したところから2勝1分で巻き返しての目標達成だったのだか、ここには3人の立役者がいた。
GKマノーロ・レイナ、MFサルバ・セビージャ、DFブライアン・オリバンのことで、彼らはいずれも今季限りでチームを去った選手たち。3選手はほぼ間違いなくマジョルカでのプレー継続を望んでいたが、自分たちを来季「必要ない」と判断したクラブがトップリーグに踏みとどまるため尽力したことになる。さらにおそらく彼らは最終節の前には来季の去就が決まっていた。
義理立てする必要のない相手への最後の奉公は、単にプロ意識だとか責任感だけでできるものではない。精神的な安定から来るパフォーマンスレベルの維持、チームへの帰属意識の高さ、ピッチ外を含めたプレッシャーとの付き合い方、自分の専門外のポジションでの対応力なども含まれる。
彼らはスペイン1部リーグの中では決してトップレベルの選手ではない。それでも自分たちのステージで必要とされていた時に自らの力を最大限に発揮できる術を持っていた。運に助けられた部分も少なからずあるが、それを引き寄せることも実力の1つだろう。そういったものは経験豊富なベテランが得意とするところだ。
島田 徹
1971年、山口市出身。地元紙記者を経て2001年渡西。04年からスペイン・マジョルカ在住。スポーツ紙通信員のほか、写真記者としてスペインリーグやスポーツ紙「マルカ」に写真提供、ウェブサイトの翻訳など、スペインサッカーに関わる仕事を行っている。