川崎の大敗、湘南の大勝は「偶発的ではない」 トップと最下位の極端な格差なし、J1で優位性を発揮する2つのポイントは?

いつでも崩せる自信に満ちた川崎のスタイルは薄れつつある

 故障者リストを覗けば、DFジェジエウ、MFチャナティップ、MF大島僚太、DF登里亨平らの名前が並び、この夜はDF谷口彰梧が出場停止。昨年は切り札的な存在だったMF三笘薫(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)やMF田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が去った事実を見れば、むしろ王者の意地で良く踏みとどまっている感が強いが、少なくとも圧倒的にボールを保持していつでも崩せる自信に満ちたスタイルは薄れつつある。

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 そして大前提が揺らいでいるので、先制されると焦ってリスクを賭けて崩壊を招く悪循環が見て取れる。湘南戦でもセンターバックのDF車屋紳太郎が相手陣内まで運んで送った縦パスがインターセプトされ、こぼれを拾いに出たMFシミッチもかわされ1対3の形を作られ3失点目。さらに2分後には交代出場したMF瀬古樹が、後方から前がかりのプレッシャーを受け3人に囲まれている脇坂に何気ないパスを選択したのがすべてで、湘南は狙い通りのカウンターを結実させてダメ押しの4点目を挙げた。

 川崎の平均走行距離は17位。これまでは技術で圧倒的な優位性があったので、個々の移動が少なくても効率的にボールを支配し動かすことで勝利を呼び込むことができた。だが現在は前線でFWレアンドロ・ダミアンへの依存度が高く、リスクをかけて押し上げてもジェジエウという卓越した「保険」がない。

 現状のJ1は、この試合で証明されたようにトップと最下位でも極端な力の差はない。傑出したリーダーも、落第印を押された脱落者もいない。一方でここまでは走力と強度を表現できて序盤から主導権を奪いに行けるチームが優位性を発揮しており、この構図が夏場も継続されるのかが焦点となりそうだ。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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