EL優勝の陰に長谷部誠…絶大な影響力と“唯一無二”の安定感 偉業は「この男なくしてなかった」と言っても過言ではない

後半途中からピッチに立ったMF長谷部誠【写真:ロイター】
後半途中からピッチに立ったMF長谷部誠【写真:ロイター】

フランクフルトを救った長谷部、チームが苦しい時に助けるのが「いい選手」

 2年前のリーグ最終節バイエルン戦後の言葉を思い出した。

「周りが動けてない時に、自分のやることが多くなる分、上手くいかないことが多くなってくる。チームが走れて動けて頑張れている時は、自分がすごく狙いを定めやすい。(終盤は)そこがすごく難しくなってきた部分があった。1人の選手としてそういうチームが難しい状況でもチームを助けたり、そういうところがやっぱり本当にいい選手だと思う。そういう意味では、まだまだもっと良くしなきゃいけないというところを余計に感じた」(長谷部)

 チームが苦しい時こそ助けられる選手でありたい。その思いはきっと今も強く残っているはずだ。そして長谷部はこれ以上ない舞台で、これ以上ないパフォーマンスでフランクフルトを救ってくれた。

「どうしてもバタバタしてしまうところがチームとしてあるので。そういうところで自分が出て、落ち着かせたりというのは自分の役割だと思う。チームの中でフュールングシュピーラー(リーダープレーヤー)というのかな、ピッチの中だけじゃなくて、ピッチの外でも手本でありたいなと思います」

 これは2020-21シーズンのアウクスブルク戦に途中交代した後のコメントだ。長谷部はいつでもチーム全体のことを見ている。そしていざ自分が出場する時のために最大限の準備をしている。

 攻撃的な選手とは違い、守備的な選手の途中出場というケースはどうしても多くはない。「おそらく出場はないな」と思ったら、それなりのアップしかしなくても不思議ではない。でも長谷部はどんな時でも全力でアップをしていた。ほかの選手が試合の様子を見ながらゆっくり柔軟をしている隣で、何度もダッシュを繰り返しながら出場機会にいつでも備えている。普段の練習で手を抜くなんてするはずもない。練習中のランニングではいつでも先頭で走る。

「試合にノミネートされなかった選手も、出場機会がなかった選手も、いつもチームのためにいてくれた。いつもチームを支えてくれた」

 オリバー・グラスナー監督は優勝後にそう感謝の言葉を述べていた。長谷部が見せてくれる模範的な姿勢に周りの選手が受けた影響は計り知れないだろう。ピッチ内外でチームをまとめ上げ、そして大事な局面でチームを救うパフォーマンスを見せてくれた。

「長谷部なくしてこの優勝はなかった」というのは言い過ぎだろうか?

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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