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上を目指し続けるサムライ・フットボーラー 瀬戸貴幸の挑戦
無名のアマチュアからプロへ、現代のシンデレラストーリー
瀬戸貴幸の履歴は異色にして特別だ。まさしく日本のスペシャル・ワンである。8年前、単身ルーマニアに渡り、当時3部リーグだったFCアストラにテスト入団した。そして上昇を続けるチームに食いつくように、瀬戸自身も成長し、今季はヨーロッパリーグの舞台に立っている。
10月23日。確かにこの夜もセルティックに1-2で敗れ、チームは3連敗した。しかし、無名の一アマチュア・フットボーラーだった瀬戸は、選ばれしプロ達で争われる欧州戦の舞台にトップ下で先発出場し、主力としての存在感を示した。これは現代のシンデレラストーリーといっていい。
一体どのような気概を持ってここまでやってきたのだろう。たった一人の力でここまでのし上がって来た日本男児はどんな人間なのだろう。何か特別な精神の持ち主なのか。
ところが瀬戸本人は、ルーマニアに来る前にここまでたどり着けると想像したかという問いに、力むこともなくこう答えた
「想像はしてないです(笑)。ルーマニアに来る前はプロになることしか考えていなかった。プロになっても、3部にいた頃は、2部に上がることさえ想像できなかった。でもこうして1部に上がって、そこで順位も上がったら、ヨーロッパリーグにも出たい、チャンピオンズリーグにも出たいと思えるようになった。実際、ルーマニアリーグでも優勝すれば、チャンピオンズリーグの予選に出られますから。実際そういうことが目標として見えてきました。今季はその目標とした舞台が一つ実現できて、それはすごくうれしいです」
つまり、目の前にあることを一つ一つ片付けてきたら、ここまで上がって来ることができたということなのである。実際瀬戸にそう聞くと「そうです、そうです!」とうれしそうに答え、「これからもたぶんそうだと思います」と続けた。
サッカーが好きで、プロになりたかった。しかしJリーグには入れなかった。けれども海外に出たのは「自分はやれる」という自信があってのことだろうと思った。ところが瀬戸はこういった。
「最初はブラジルに行ったんですけど、ブラジルでは全く通用しなくて、ぼこぼこにされて、それが現実だった。Jリーグには行けなかったですけど、日本ではある程度できた。でも日本でそこそこできちゃうのが嫌だった。それで海外に出ようと思いました」
全く逆だった。Jリーグには入れなかったが、日本でサッカーをやれば人よりできた。そこでアルバイトで細々と溜めた金でブラジルにサッカー留学した。ところが、そこでは全く通用しなかった。しかしそこで上には上がいると実感したことが、ヨーロッパに渡ってプロになるという決意に変わった。
それは昨季、中東のクラブから好条件のオファーが届いたにも関わらず、ヨーロッパリーグの舞台にこだわりアストラに留まった決断にもつながっている。
「たぶんルーマニア人ならお金を優先すると思う(笑)。でも日本人にはそういう(金にこだわらない)性格があると思う。他の、ヨーロッパでやっている日本人選手もそうだと思うけど、やっぱりできるだけ高い舞台でやってみたいと思うものなんじゃないでしょうか」
そういうところは確かに日本男児に通じるロマンだろう。決して弱者の中で安住することはせず、より強い相手を求めて武者修行に出る。損な性分なのかも知れないが、どうやら瀬戸の体内には、そんなサムライのDNAが駆け巡っているようだ。