初戦の守備崩壊から手倉森Jをいかに立て直すか アテネ五輪代表主将が語る「12年前の教訓」
「勝敗を分けるのは本当に小さな差」
今季の那須は、シーズン開幕から常にベンチ入りをしていたものの、なかなか出場機会は訪れなかった。それは、遠藤が湘南ベルマーレから移籍加入してポジションを確保したことも大きい。それでも、日々の弛まぬ努力を怠らなかった結果、遠藤が五輪代表に招集されて抜けた後は、浦和の守備陣を3バックの中央でまとめている。そこには、彼が常々話している「悪い時、厳しい時ほど自分が試されている」という思いと、五輪の経験から得たものがあるという。
「一生に一回あるかないかの場所で、結果を出したいという思いはみんな強いはず。だけど、終わってから僕が思ったことは、うまくいかない状況を含めてすべてを楽しめるか。いかに短期間で団結できるか、チームとして戦えるか。もちろん日本の代表という思いはあるはずだけど、それが重荷になるなら、ピッチに立つ時だけはそれを下ろして楽しんでほしい。悪い時があったり、悔しさや無力感も生きている証拠。それを感じられるのは滅多にないし、世界と戦っているからこそ、そこを楽しめと。勝敗を分けるのは本当に小さな差だから、吹っ切ってやってほしいという思いですね」
同じ立場、悔しさを経験したからこそ、那須は熱い思いを語った。当時の五輪代表は、第2戦となった強豪イタリアとの戦いに敗れて敗退が決まった。今大会も第2戦のコロンビア戦に敗れれば、グループリーグ突破の望みは絶たれる。
そうした厳しい状況だからこそ、前向きに楽しみ、必死でプレーし、勝つということに集中できるか。12年前の悔しい思いが自身を成長させたと実感している男は、遠くブラジルの地で戦う後輩たちを熱く、優しく見守っている。
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轡田哲朗●文 text by Tetsuro Kutsuwada
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images