ドイツ、米国両代表コーチとしてW杯2大会を戦った1人の日本人 チーム内部から見る一流のマネジメントとは
咲花正弥氏が語る新旧ドイツ代表監督の素顔
ドイツ代表と米国代表のフィットネスコーチとして、2大会連続でワールドカップ(W杯)を経験した日本人がいる。咲花正弥氏は、南アフリカでドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督を、そしてブラジルで米国代表のユルゲン・クリンスマン監督を陰から支えた。咲花氏が目にした、固い絆で結ばれた新旧ドイツ代表監督のマネジメント術とは、2人の素顔とは一体どんなものなのだろうか。
――クリンスマン監督とレーブ監督はどんな人柄の方ですか?
「正反対の部分がありますね、人柄という意味では。ブラジルW杯で米国を率いたクリンスマン監督は非常にフレンドリーで、どんな人にでも気さくに声を掛ける姿が印象的でした。チームの中でもいろんなスタッフに声を掛けます。彼は『チームにヒエラルキーは無い』と言うんです。
例えばドイツ代表ではファーストメディカルドクターの順位が高く、彼にはナンバーワンのフィジオセラピストが付きます。ナンバー2のドクターにはナンバー2のフィジオが付き、バスの中の席順やベンチの席の着き方までも細かく決まっています。けれど、クリンスマンは一切気にしません。そういうヒエラルキーは無いというように公然と言っていました。
W杯の事前合宿をサンフランシスコのスタンフォード大学で行った際も、特別な部屋ではなく、あえて校内のカフェテリアで昼食を取らせるアイデアを彼は出しました。選手もスタッフも周りの学生たちと一緒に食事をするんです。広いカフェテリアにはいろんなテーブルがあり、スタッフはスタッフ、選手は選手で固まって食事をしていましたが、監督だけはよく1人でフラッと学生のいるテーブルに行ってしゃべっていたんです(笑)」
――ではレーブ監督は?
「逆にレーブ監督は、合宿や遠征中に他のスタッフと話したり、日常的な会話をしたりという場面があまり見受けられません。ファーストドクターとは話をしますが、アシスタントコーチとGKコーチ、チームマネジャーのオリバー・ビアホフ、その4人でいつも話をしているイメージですね。
クリンスマンはチーム全体を見て、1人ひとりに声を掛けるようなところがあります。一方でレーブはサッカーのことを突き詰めているせいなのか、戦術のコーチたちと常に一緒にいることが多く、他のスタッフと話す姿はあまり見られない。そこに2人のパーソナリティーの違いがあると思いますね」
――クリンスマン監督は情熱的な性格だと聞きました。
「そうですね。そこが彼の面白いところだと思います。表面上はフレンドリーでポジティブ。人当たりもすごく良いのですが、自分が問題だと思った点はとことん追及する。自分が違うと感じる部分に関しては少し口調を強くし、感情を出しながら話すということがよくありました」
――レーブ監督にも、声を荒らげるような場面はあったのですか?
「ありますよ。基本的には練習中も試合中も穏やかな印象ですが、ボディーアクションを大きくして声を荒らげることもありました。ロッカールームで怒鳴り声を上げたことも何回かありましたし、サッカーにおいては感情の起伏がある監督だと思います。2人とも黙考するよりいろんなことを言うタイプだと思います」