「日本で起こっているのが不思議」 世界に学ぶ“暴力・暴言問題”…ドイツの現場では「ありえない」
スイスでは定期的な記録が義務 「選手はわざと怒らせようとしているわけではない」
「育成年代の子どもたちに対して暴力や暴言……。ありえない。もちろんイライラさせる子供はいるかもしれない。仲間の邪魔をしたり、人としてやってはいけない子供たちに対して、厳しく接することも時には必要だ。だが、手をあげたり、子供たちの尊厳を損なうような言葉を浴びせるなんてことはありえない」
日本でも子供への体罰は法律で禁じられている。なのになぜそれを容認してしまうのか。根本的なところを見つめ直す必要があるのではないだろうか。教育者、指導者の在り方をどこまで正しく伝えて、どこまで徹底的に遵守してもらおうとしているのか。そのためにどんなインストラクターにどのように伝えてもらおうとしているのか。名ばかりのウェルフェアオフィサーになっていないだろうか。例えばスイスでは各クラブは指導者の普段からの態度や取り組みを、定期的に記録を取ることが義務付けられている。世界の事例から学べることはたくさんあるはずなのだ。
パプスト氏は訴えるように力強く話した。
「指導者は知らなければならないんだ。子供たちは、選手は、誰一人としてわざとミスをしているわけではない。選手は監督やコーチをわざと怒らせようとしているわけではない。脅迫や暴言や暴力……。想像力を奪う。サッカーは何よりも想像力が大切なスポーツではないか」
暴力・暴言撲滅はいずれ達成されるべき目標ではない。「願わくばできるようになるように」という話ではない。可及的速やかに解決されるように取り組まれなければならない大事なテーマであるはずだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。