ドイツ2部残留のハノーファー、日本代表DF室屋成に寄せられる名門復活へのさらなる成長

室屋に求められる攻撃面での成長

 1部昇格に焦点を定めたのは確かだが、翌シーズンすぐの昇格を目標として公言してはいない。キント会長も「新しいチームはともに成長するための時間が必要だ。まずは最低限6位以上を狙いたい」と抑えめな発言。マンSDも「チームとしての安定感を勝ち取りたいし、一桁順位が当面の目標。14位からいきなり1~3位を狙うのは間違っている」と現実的な視点からの目標設定をしていた。

 これは大事な一歩なのかもしれない。ハノーファーは時に高すぎる目標が足かせとなることが少なからずあった。継続性に欠け、矢継ぎ早に監督交代で状況打開ばかりを狙う。もちろん、来年昇格できるに越したことはない。だが、いらぬプレッシャーはすべての歩みを鈍らせることにもなりかねない。まずは昇格を狙えるだけの基盤を作り上げ、それこそ1部へ昇格しても十分戦っていけるだけの戦力を整えることが必要なのだから。

 そんなハノーファーにとって、室屋は今後さらに重要な選手となると期待されている。今季は怪我の影響もあり、33節終了時点でスタメン出場は20試合。スピードを生かした攻め上がりは大きな武器だし、フィジカルコンタクトの厳しいドイツにおいて、1対1での対応はだいぶ改善されたと評価されている。だが、ポテンシャルを考えると主軸として全試合で起用されるべき選手のはずだ。

 ダブロフスキ監督は、室屋のこれからのさらなる成長に向けてメッセージを送ってくれた。

「フィジカル的にも非常にいいものを持っている。将来的にもっと攻撃面での成長を見せてくれることを願っているよ。攻撃に効果的に絡み、センタリングを上げられる機会を増やしてくれたら。ポテンシャルは間違いなくあるんだ」

 試合前のアップでは精度の高いクロスを何度も上げている室屋。試合になると攻守のバランスを考えなければならないし、攻撃ばかりでいいなんてこともない。それにサイドバックのポジションで試合の流れを決定づけるのは難しい。そんななかでも、チームが慌ててしまう時間帯に流されず、自分のところでボールを落ち着け、また自分たちのリズムに持ち直す働きかけをしたり、ここぞという局面を見逃さずに勇敢に攻め上がる局面を増やしていきたい。

 名門復活に向けて、そして1部再昇格へ向けて、室屋のさらなる成長が欠かせない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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