板倉滉とシャルケサポーターの相思相愛の関係 1年での1部復帰を後押しした“クラブ愛”
2点ビハインドを背負い、誰もが1部復帰の朗報は最終節に持ち越しと思われたが…
渾身の期待を込められた先に背番号4を背負った日本人選手がいる。その所作はどこまでも落ち着いていて、一見すると気負いは感じられない。しかし、そんな彼も素顔は25歳の1人の青年である。マンチェスター・シティからのレンタル移籍で今季シャルケに加入し、このクラブを取り巻くエモーションに感化され、センターバックのレギュラーに定着し、その責任をひしひしと感じてきたからこそ、この一戦の重要性を理解している。だからこそ、チーム全体が浮足立つなかで、板倉滉の挙動もどこかせわしなかった。
試合開始早々、エースFWシモン・テロッデがGKとの1対1でシュートミスした瞬間に不穏な空気が漂った。記者席の後方に座るサポーターたちから大きなため息が漏れるが、彼らはすぐさま励ましの意を込めたコールを送った。
前半9分に初めてザンクト・パウリが攻撃を仕掛けた。シャルケから見て右サイドを突破されるなか、バックラインの板倉はスペースケアと相手マークの両輪をこなして対応するも、味方選手が相手のパスコースを遮断できない。相手FWイゴール・マタノヴィッチがゴール右下にシュートを通すと、スタンドからは怒号ではなく味方チームを鼓舞するチャントが鳴り響いた。
前半17分、板倉のバックパスを受けたGKマルティン・フレイシルがパスミスを犯して相手にボールを譲り渡してしまう。再びゴール前でボールを受けたマタノヴィッチが右足を振り抜いてザンクト・パウリが2点目。さすがのシャルケサポーターもこの時ばかりは頭を抱えて予想外の展開を嘆いた。マタノヴィッチのシュートを防ごうと決死のスライディングを敢行するも届かなった板倉が、力無げに拳で芝生を叩いている。1部復帰の朗報は最終節に持ち越された。誰もがそう覚悟した瞬間だった。
前半23分、左コーナーキックからゴール前に飛び込んだ板倉が頭でコンタクトしたボールを再び右足で触ってゴールに入れ込み1点差に迫ったかに思われたが、これはビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の末にハンドと判定された。確かに板倉はそれほど喜んでいなかったから、スタンドもゴール取り消しを平静に受け止めていた。それでも現実は2点ビハインドのまま。重い空気にスタジアムが沈められていくような感覚を覚えた。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。