マンチェスター・シティ敗戦の「なぜ?」 “8割ぐらいは勝てる”スタイル設計から浮かぶ「勝てない理由」

1982年W杯のブラジルと同様「専守防衛で時間を浪費するつもりはない」

 ただ、それでもシティが負けたのはなお不思議である。

 レアルに勢いはあった。しかし、後半23分のMFトニ・クロース→FWロドリゴの交代から流れは変わっていた。同27分、シティはDFカイル・ウォーカーとMFケビン・デ・ブライネをアウト、DFオレクサンドル・ジンチェンコとMFイルカイ・ギュンドアンに交代。その直後にFWリヤド・マフレズのゴールが決まっている。

 2試合合計で2点差となったレアルはカゼミーロ、MFルカ・モドリッチに代えてMFエドゥアルド・カマヴィンガ、MFマルコ・アセンシオを投入。クロース、モドリッチ、カゼミーロの長年チームを支えてきたトリオが消滅し、ますますバランスは悪くなった。

 若手主体となったフラットな4-4-2(あるいは4-2-4)はボールを奪うにはいいが攻撃はやりにくい。奪っても自陣から前進できず、少なくとも2点取らなければいけないチームとしては望み薄な状態だった。

 後半42分にはMFジャック・グリーリッシュが立て続けにシュートを放ち、シティはもう1点取れる寸前までいっている。もうレアルが勝てる理由を探しても見つけられない状況であり、あのままならまさに「不思議の負けなし」だった。

 ところが、「不思議の勝ち」はあった。後半45分、アディショナルタイム1分とロドリゴが連取して2-1、合計スコア5-5。これで流れを掴んだレアルは延長でFWベンゼマがPKを決めてファイナルへ勝ち上がる。

 シティに勝てない理由はあった。しかし、負けた理由を探すなら1つしかない。勝てる試合になっていないのに勝とうとしたことだ。第1戦で1点リードしていたシティは、この試合はドローで決勝へ行けた。しかも相手の勢いがなくなった時間帯に先制もできた。なのに、もう1点取ろうとしていた。

 合計2点差がついているのに、なぜ3点差にしようとしたのかというと、そういうチームだからだ。そういう設計になっている。1982年のスペイン・ワールドカップ、イタリアに2-3で敗れたブラジルが、MFパウロ・ロベルト・ファルカンの同点ゴール(2-2)の後、なぜ守備を固めなかったのかと批判されたのと同じだと思う(ブラジルはドローで準決勝へ進めるはずだった)。

 チームがそういう設計だからだ。シティもブラジルも専守防衛で時間を浪費するようにできていないし、そもそもそうするつもりがない。そして、サッカーの神様はその気高い精神に時々、鉄槌を下すのだ。太陽に挑んで墜落したイカロスのようにシティは敗れた。

 試合後、グアルディオラ監督の表情はさばさばしたものだった。翼を焼かれて墜落しても、悪びれた様子など微塵もない。サッカーの神様のほうが小さく見えた気がした。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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