日本のスポーツ現場で暴力・暴言問題はなぜ頻繁に起こるのか ドイツでの厳格な対処や準備とは?

指導者が1人で行動すると何かあった時に証明するのが難しくなる

【3】指導者を1人で行動させない

 そもそもクラブとしては指導者が1人で行動しないようにするのが望ましい。それこそ育成年代の子供たちは“異変”に気づかないこと、口にできないこともある。児童ポルノ関連の問題の多くは、指導者1人が親しげにロッカールームで子供たちとじゃれ合っているような雰囲気で起きてしまうと指摘されている。

 また暴力や暴言も、指導者サイドがなんらかの理由で自身の感情をコントロールできずに、爆発させてしまうことが少なくない。1人で指導現場にいるとそれを抑制するものもないまま、パワーバランスを利用して、思うがままに暴力・暴言につながってしまう。

 また指導者が1人で行動していると何かあった時に証明するのが難しくなる。子供たちの説明だけでは不十分となってしまうことも少なくない。そのため、必ず指導者サイドは2人以上で行動することが望ましい。互いに監視をし合うというよりも、背負い込むものを分け合うことで、指導者側がストレスを抱え込みすぎないようにすることが狙いと言えるだろう。

【4】指導者の組み合わせ

 2人以上で行動といっても、2人が同じようなタイプで同じようなことで激高したりするなら複数で行動させる意味がなくなってしまう。それこそ、それぞれが“危険”な匂いのする指導者を組ませてしまうと抑制も自制もなく、それでは逆効果でしかない。
 
1人が情熱的に取り組むタイプなら、もう1人は冷静に行動できるタイプと組んでもらうことで全体のバランスを良くするという対処は大切になる。

 例えば、経験豊富で冷静沈着なコーチとまだ指導者歴は浅いけど情熱的で子供たちと年齢が近い若手コーチのような組み合わせ、あるいは十分な経験を積んできた情熱的指導者といつもニコニコで子供たちと話をすることができる若手コーチみたいな組み合わせは素敵だ。

 もちろん指導者にしても人間だから相性というのもある。タイプだけで決めつけるのではなく、2人が分かり合って、同じ方向を向いて、同じような考え方でサッカーに、指導に向き合うことができるかを考慮することは大切になるし、そのための時間を十分に持ったうえで、翌シーズンのキャストを決めるのがドイツではよく見られる風景である。

※「暴力・暴言問題」後編へ続く

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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