“盟主”遠藤航に託されたシュツットガルトの未来 残留に向けて課せられたタスクとは?
残留に向けてバイエルン戦でイエローカードは回避せねばならない
シュツットガルトの反攻は、残り約77分の間一貫して続いた。それでも負傷、そして新型コロナウイルス感染症の陽性反応などで離脱を繰り返してきたFWカライジッチがチャンスを逸するなどして、やはりゴールが遠く感じた。
絶体絶命の窮地に立った時、ホームサポーターの絶叫にも似たチャントとコールが鳴り響いた。その勢いに促されたシュツットガルトは後半44分、遠藤を起点に左サイドへ展開したボールをMFエンツォ・ミローが受けてクロスを上げると、ファーサイドで構えたMFクリス・ヒューリッヒがボレーで叩いてボールをゴールネットに突き刺した。土壇場の同点劇にメルセデス・ベンツ・アリーナが興奮の坩堝と化す。試合は惜しくもこのまま1-1で終了したが、今シーズンのリーグ戦2試合を残した段階でわずかに残留圏入りの希望を絶やさなかった結果に、シュツットガルトを取り巻く者たちは一様に安堵の表情を浮かべていた。
どんな状況下でも一切動揺する姿を見せない遠藤が、試合後のテレビインタビューに応えている。日本メディアの取材を終えると、今度は地元ドイツメディアに向けて英語で受け答えしている。ひとしきり話を終えると、メインスタンドには多くのサポーターが集結していて、遠藤に声援を送っている。この一団の大半は子供たちで、彼らは試合後にここで憧れの選手たちとの記念写真やサインを求めるのが通例となっている。
ほかのチームメイトが数人の願いに応じるなか、遠藤だけはすべてのサポーターと触れ合っている。男の子数人が「一緒に写りたいから、ワタルがカメラを構えて撮って!」と言うと、柔和な微笑みをたたえ、二つ返事でそれに応えている。
この選手の凄みは心の奥底に備える信念と、周囲の期待に寡黙に応える責任感の高さにある。その安心感にも似た風格が、危機に瀕したシュツットガルトに一筋の光をもたらしている。一方で、遠藤はこの日のゲームでイエローカードを掲示されたことで累積警告数が4枚となった。もし次節の大一番、バイエルン・ミュンヘンとの一戦で再び警告を受ければ、遠藤は残留を懸けた最終節のケルン戦で出場停止処分を科せられるかもしれない。
頼もしき存在だからこそ、窮地でのチームキャプテン不在は絶対に避けねばならない。まずは今節、“盟主”とのアウェーマッチで未来への道筋をつける。それが今の遠藤に課せられた重要なタスクだ。
(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。