レアルを優勝へ導いた名将は「ちょっと地味な普通のおじさん」 アンチェロッティ監督はビッグクラブにちょうどいい

レアルを率いるアンチェロッティ監督【写真:ロイター】
レアルを率いるアンチェロッティ監督【写真:ロイター】

【識者コラム】レアル優勝、アンチェロッティ監督が5大リーグ初制覇の偉業

 リーガ・エスパニョーラ第34節、スペイン1部レアル・マドリードが優勝を決めた。エスパニョールを4-0で撃破。リーグ優勝はこれで35回、もちろん最多だ。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の優勝13回もずば抜けた戦績である。

 カルロ・アンチェロッティ監督はこれで欧州5大リーグすべてに優勝という偉業を成し遂げている。ACミラン(セリエA)、チェルシー(プレミアリーグ)、パリ・サンジェルマン(リーグアン)、バイエルン・ミュンヘン(ブンデスリーガ)、そしてレアルと率いたクラブがすべて強力なのだが、ビッグクラブを歴任できること自体がアンチェロッティの監督力なのだと思う。

 アンチェロッティ監督のイメージは「中庸」だ。

 戦術的なイノベーターではなく、エキセントリックな天才肌でもない。近くで姿を拝見しても全然オーラがなかった。どこからどう見ても普通のおじさんなのだ。ただ、たぶんそれがいいのかもしれない。クラブの幹部やスター選手と上手くつき合える。たまに衝突して気骨のあるところも見せているが、これだけの名監督にしては極端にトラブルが少ない。そのわりに政治力にそれほど長けているようにも見えず、そのぶん好感度はあるが、割と簡単にクビにもされている。

 今季はカリム・ベンゼマが素晴らしいプレーぶりでチームを引っ張っていた。大ベテランのルカ・モドリッチも健在、トニ・クロース、カゼミーロも健在。セルヒオ・ラモスの抜けた穴はダビド・アラバが埋めていて、そこが穴だったことすら忘れられている。ライバルのFCバルセロナ、アトレティコ・マドリードがもたついている隙に、悠々と勝ち点を重ねていった。

 そんななか、アンチェロッティ監督が何か特別なことをしたという印象はない。

 もちろん何もしていないわけはない。勝てば選手のおかげ、負ければ監督のせい。だいたいそう見えてしまうけれども、実際は逆のことが多いのだ。バルセロナとのエル・クラシコでは珍しくモドリッチの「偽9番」という奇策を用いた。アンチェロッティにはこういう一面もあるわけだ。ただ、完敗しているので、まさに監督のせいで負けたようにしか見えない典型だったのだが……。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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