チェイス・アンリ加入のシュツットガルトの“セカンドチーム”とは? “廃止危機”乗り越え“特別”プロジェクトでプロ入りへ「人間性の成長も」
【ドイツ発コラム】シュツットガルトがぶち当たってきた育成年代の課題 廃止危機も
日本代表MF遠藤航と今季ブレイクを果たしたDF伊藤洋輝がプレーするシュツットガルトに来夏からU-21日本代表の18歳DFチェイス・アンリが獲得されることが発表された。最初はセカンドチームに所属して経験を積むということになっているが、シュツットガルトのセカンドチームとは一体どのような環境なのだろうか。
シュツットガルト育成アカデミーはドイツでも有数の育成機関として有名だ。U-19で10度、U-17では7度ドイツ王者に輝き、シュツットガルトの育成育ちで3年以上ヨーロッパのトップリーグでプレーしている選手の数はすでに100人を超えているという。
サミ・ケディラ、アントニオ・リュディガー、ヨシュア・キミッヒ、ベルント・レノ、ティモ・ヴェルナー、セバスティアン・ルディ、セルジュ・ニャブリといったドイツ代表選手も数多く輩出している。
これだけ多くの選手がプロで活躍し、それこそ育成育ちの選手がみんな残っていたら優勝争いさえできるほどの戦力になっていたかもしれない一方で、シュツットガルトで育ち、シュツットガルトでデビューし、シュツットガルトで主力に成長という選手が長年出てきていないというのがクラブとしての大きなテーマだった。
そして2016年ごろ、「U-17、U-19からU-23を経由してトップチームで活躍する選手が出てきていないのに、それなりに予算が必要なセカンドチームを保持し続けなければならないのか」という疑問が持ち上がっていた。当時のスポーツディレクター(SD)のミヒャエル・レシュケ氏は2部か3部クラブと提携し、そこへ選手をレンタルに出すことが解決策になるのではというアイディアも探っていたと報じられている。
様々な可能性を探った結果、セカンドチーム廃止はひとまず「なし」となった。「予算がかかるから廃止に」ではなく、「なぜ、なんのために、どのようにセカンドチームはあるべきか」という問題をより真剣にディスカッションし、より最適に生かすすべを見出そうとしている。
これまでセカンドチームでプレーしていた選手みんながプロ選手になれる可能性を持っていたかというと、そういうわけではなかったというのが正直なところだろう。プロ選手としてではない他の道を探るための場としてセカンドチームがあっても、そうしたあり方が悪いわけではない。
ただプロクラブとしてシュツットガルトは、将来的にプロ選手としてやっていけるであろう資質があり、継続的に確かなコンセプトのもとで経験を積み重ねていくことで、その可能性をより高められるような場にしようとしている。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。