なぜリーグ優勝のPSGにファンはブーイングしたのか お金で強いチームは買えてもファンの心までは救えない
【識者コラム】優勝決定の一戦でホーム観客席からブーイング、スターだからこそ非難
現地時間4月23日の第34節でフランス1部パリ・サンジェルマン(PSG)のリーグアン優勝が決まった。2位のマルセイユとはすでに15ポイント差、引き分ければ優勝のランス戦を1-1で締めくくった。ホーム、パルク・デ・プランスの観客席からはブーイングが沸き起こり、一部のファンは優勝を見届けずにスタジアムの外へ去ったという。優勝が決まった試合としては異常な光景である。
優勝したチームにブーイングというのは、どう考えても何かおかしいのだが、どうもUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16敗退が不満らしい。試合前のメンバー発表では、リオネル・メッシとネイマールの名がアナウンスされる時にブーイングが起こっていたという。さらに2人がボールを持つたびにブーイングが浴びせられた。もちろん一部の反応ではあるが、チームの大看板選手にブーイングというのはやはり珍しいし、とっくに終わった試合を根に持たれての非難というのも異様だ。
J1のヴィッセル神戸は10試合で未勝利、最下位という絶不調だが、アンドレス・イニエスタへブーイングが沸き起こる事態にはなっていない。コロナ禍で声が出せないルールとは関係なく、神戸ファンがイニエスタに非難の口笛を浴びせる図は想像できない。しかし、パリは違う。メッシやネイマールといえども、いやメッシとネイマールだからこそ盛大に非難されている。スーパースターなのに、その力を発揮しなかった。一部のファンにはそれが許せないのだ。
CL優勝はPSGの悲願だ。しかし、そもそもPSGはCLで優勝したことが一度もない。ファイナルも1回経験しただけだ。レアル・マドリードに負けたのが許せないとは、いつからそんなにプライドが高くなったのだろう? リーグ優勝したチームにブーイングというネジくれた精神構造はいつからなのか。
2011年にカタール投資庁の子会社であるカタール・スポーツ・インベストメント(QSI)が買収してからPSGは変わった。その後の11シーズンでリーグ優勝8回。それ以前は2回しか優勝していないが、通算10回でサンテティエンヌに並ぶ最多優勝クラブとなった。
ハビエル・パストーレにはじまり、ズラタン・イブラヒモビッチ、チアゴ・シルバ、キリアン・ムバッペ、さらにネイマール、メッシと獲得するスターのスケールが信じられないほど大きくなっていった。「金でいい選手は買えるがいいチームは買えない」という業界のセオリーを覆した。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。