サッカー界でリバイバルの可能性も モドリッチの絶妙アシストに見たアウトサイドキック復活の予感
1990年代以降は徐々にアウトサイドキックが減少
ヨハン・クライフもアウトサイドを多用していた。FKを右足アウトで蹴り、左サイドからのクロスボールを右足のアウトで入れる。クライフは左足も上手い両足利きに近い選手だったので、わざわざ右のアウトを使うのはそれなりの理由があったわけだ。
アウトサイドを使う理由としては、第1にボールをカーブさせること。目の前の敵を迂回するパスを出す、あるいはFKの壁をまくシュートに使う。ペレやガリンシャの曲がるシュートは「バナナシュート」と呼ばれていた。第2の理由はタイミングの操作。アウトサイドは「前足のキック」とも言われていて、走る歩幅のまま少ない予備動作で蹴るからタイミングを相手に読まれにくい。クライフは「両足のインとアウトを使えれば4つのタイミングでプレーできる」と言っていた。早めることも遅らせることもできる、タイミングの操作ができるわけだ。
しかし、1990年代以降はアウトサイドキックが減っていった。
1980年代はミッシェル・プラティニが強いシュートを打つ時にアウトで変化させていたし、ディエゴ・マラドーナの足首の返しだけで飛ばしてしまうアウトサイドもあったが、あまり見られなくなっていった。
プレーのテンポアップが原因ではないかと思う。タイミングを読まれにくい利点よりも、読まれていても反応できないパススピードが要求されるようになった。左足でやれることをわざわざ右足で難しいキックをする必要がないというのも、もっともである。
ただ、アウトサイドキックは減ったとはいえ、なくなったわけではない。ポルトガル代表のウイング、リカルド・クアレスマは右足アウトでのクロスを得意としていたし、モドリッチは現在これの代表格だ。
前記のように「前足のキック」だから、自分の前にあるボールを押し出すように蹴るので、ボールと到達目標を結ぶ照準を合わせやすいという良さがある。予備動作の少なさもブレの少なさにつながる。あとは自分のボールの曲がり具合を分かっていれば、精密なパスを出しやすい。踏み込みもほぼないので、ボールをセットした瞬間に蹴り出せる。
なくなりかけたものが復活するというのは、サッカーではよく起こる。モドリッチの影響でアウトサイドキックもリバイバルするかもしれない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。