CL8強で散ったバイエルン、伏兵ビジャレアルになぜ屈した? 敵将が発した「リスペクトすべき」から紐解く要因
駆け引きという部分でビジャレアルを苦しめられなかったバイエルン
今季、新監督として迎えられたユリアン・ナーゲルスマンは勇敢でオフェンシブに相手を凌駕し続けるサッカーを目指した。王者にふさわしい絶対的なパフォーマンスでリーグやカップ戦だけではなく、CLでも上位進出を狙う、と。
それこそ手持ちのオフェンシブな選手すべてをスタメンで使い、そのことを地元メディアに疑問視されても、攻守のバランスのまずさを指摘されても、自分の信念を貫こうとした。「これだけの選手がいるのにベンチに置くのはもったいない」と強気の姿勢を崩さずにいた。それで結果が出るなら誰も文句は言わない。
ではそのオフェンスが機能しない時はどうしたらいい?
「ペナルティーエリア内に終始8人以上の選手がいる守備を崩すのは難しい」とナーゲルスマンは試合後の記者会見で話していたが、それは試合前から分かっていたこと。そうした相手は世界中にたくさんあるではないか。
この日だけではない。ブンデスリーガでも守備固めをする相手になかなか決定機を作れずにやきもきするという試合が少なからずあった。そしてカウンターであっさり相手にチャンスを与えることはずっとテーマに挙がっていた。
ビジャレアルはバイエルンを入念に、詳細に分析してきていた。ウナイ・エメリ監督は試合後の記者会見で「バイエルンのような相手と戦うにはあれしかない」と話し、「ではスペースを埋めるにはどうしたらいいか。誰をどこに起用したらいいか。そこから攻めるのは難しいが、誰ならできるか」を考えに考えたうえでの戦い方であったことを明かした。ビジャレアルは勝つための可能性を手繰り寄せるためにあらゆる面でこれ以上ない準備をしていた。
そして記者会見でエメリ監督がドイツ人記者に「露骨な時間稼ぎはアンフェアではないか」と言われた時、憤慨して言い返した一幕が興味深い。
「他の考えをリスペクトすべきだ。ビジャレアルでの90分間はうちのほうが良かったし、そこで時間稼ぎなどしなかった。(アンフェアというなら)レバンドフスキはハードなプレーをしていたではないか。審判が退場にすべきなほどの。我々は正直にプレーをした。時間を稼ぐようなプレーもあった。そうすることで自分たちが落ち着きを取り戻す。戦い方はそれぞれにある。2試合合わせての戦い方を我々はやり通したのだ。1戦目を忘れている。リスペクトすべきだ」
バイエルンは自分たちのプレーを窮屈にしてしまったのかもしれない。どうすれば相手が嫌がるだろうかという視点が足らなかったのかもしれない。ごり押しだけでは崩せない。途中出場のセルジ・ニャブリはボールに触る機会もほとんどないまま終わった。サッカーは駆け引きのスポーツだ。だが、バイエルンはこの2試合、駆け引きという部分でビジャレアルを苦しめることができなかった。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。