CL8強で散ったバイエルン、伏兵ビジャレアルになぜ屈した? 敵将が発した「リスペクトすべき」から紐解く要因

バイエルンがまさかのCL敗退【写真:AP】
バイエルンがまさかのCL敗退【写真:AP】

【ドイツ発コラム】CL準々決勝第2戦、満員の本拠地でビジャレアルを迎え撃つ

 悲しい響きの拍手がアリアンツアレーナを包んでいた。

 ビジャレアル(スペイン)とのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝を2戦合計1-2で落としたバイエルン・ミュンヘン。選手は試合後、重い足取りでゴール裏のファンへ挨拶に向かった。ブーイングはなく、拍手とバイエルンコールが送られる。

 肩を落として控室へ戻ろうとする選手の中で、足を止めて、もう一度ファンのほうへ向かった選手がいた。トーマス・ミュラーとロベルト・レバンドフスキ、そしてその後ろからレオン・ゴレツカとレロイ・サネ。これまで数々の経験をしてきた選手たちだ。

 それが、その場から動くことができず、口を開くこともなく、ずっと立ち続けていた。ファンの前で胸に去来したのは「こんなはずではなかった」の思いだろうか。

 久しぶりに満員となったアリアンツアレーナでのCL。決勝トーナメント1回戦ザルツブルク(オーストリア)とのホーム戦では3万人の入場が許可されていたが、ゴール裏のファンはまだ戻れなかった。

 今月に入ってコロナ対策がさらに緩和されたことで、ウルトラスがやっと帰還し、この日の試合前には大きなコレオが出現していた。そこには「ボンバーは永遠に」と書かれたバナーとともに、昨年他界したゲルト・ミュラーが表されていた。

 忘れるものか。クラブの礎を築いてくれた偉人に対してメッセージを送れる日を、今日まで待ち続けてきたのだ。7万人のファンの声援を受けて、スタジアムに血が通っていく。お膳立ては整った、はずだった。

 ビジャレアルとのCL準々決勝第1戦を0-1で落としていたバイエルン。ホームでの第2戦、後半7分にレバンドフスキがゴールを挙げたことで、2戦合計スコアで同点に。その後も猛攻を仕掛けるバイエルンだが、全選手が集中力を切らさずに守備を固めるビジャレアルを攻略できないまま、時間が過ぎていく。

 このまま引き分けで延長戦突入かと思われた後半43分、突然スタジアムに静寂が訪れた。完全な無音ではない。ビジャレアル選手、スタッフ、関係者、そしてファンの甲高い喜びの声だけが聞こえきた。途中出場のサムエル・チュクウェゼによりもたらされた勝ち越しゴールがバイエルンを絶望の底へと突き落とした。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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