大敗でサポーターの出費約7900万円を払い戻し サンダーランド選手団の選択

サンダーランドの年間シート1試合当たりの料金はドルトムントの倍以上

 

 無論、これは売れ残りのディスカウントチケットだろうが、確かにロナウド、ベイル、ロドリゲスといったスーパースターを擁するRマドリードの年間シートが3万5000円というのは安い。

 アーセナルにももう少し安いシーズンチケットはあるが、それでも1000ポンド(約17万5000円)は超える。

 こうして他国と比較するとイングランドのサポーターはかなりの負担を強いられていることが分かる。

 もちろん、ロンドンの人気クラブであるアーセナルは、プレミア20クラブ中、最もチケットが高い。年間シートの料金は、ロンドンを頂点として、地価、物価が高い大都市のクラブで高くなり、順位も高くなるほど、高年俸の選手を数多く抱えることになり、チケット料金に反映される。

 だから、北のはずれの地方都市クラブで、毎年降格争いに加わるサンダーランドの場合は、年間シートも400ポンド(約7万円)。しかしそれでもホーム1試合当りのチケット代は21ポンドで、ドイツの強豪ドルトムントの倍以上の値段になる。

 しかも、サポーターの大部分がワーキングクラスの一般大衆だから、彼らにかかる負担は本当に大きい。旅費もかかるアウェイまで追っかけるとなると、それこそ稼ぎの大部分を突っ込むというサポーターも多い。

 これは余談になるが、英国でサッカーは、日本でいうところの“飲む買う打つ”に匹敵する男の浪費対象として認識される。英国女性の中には、サッカーがギャンブルより質が悪いと考える人も少なくない。

 例えばFootball Widow(サッカー未亡人)なる言葉もある。説明不要だとも思うが、これは愛する贔屓チームを何よりも優先する男性の妻となった女性たちのことである。試合がある日は夫不在で、彼女らは未亡人同然の存在になる。

 プレミアの、サッカー発祥国ならではの真剣勝負の背景には、選手にそれなりの高額年俸を保証する必要がある。しかし高い年俸を選手に支払うためには、高価なチケット料金をはじめ、試合日には妻を未亡人にしてしまうサポーター達に多大な金銭的犠牲を強いることになる。

 しかしそれでも選手が全力を尽くし、勝利を勝ち取ればいい。けれどもサポーターの誠意に背くようなプレーをすれば、当然、高い料金を取っているだけに反発も強くなる。選手がサポーターに自腹を切って損失を補填するという選択も生まれるのだろう。

 普通の日本人の感覚からすると、いくら大敗したからといって選手が2559人ものファンに旅費とチケット代を自腹で払い戻すというのは少々大げさな話だ。

 しかしそれも、サッカーのことになると常軌を逸するイングランドでは“それもあり”という話になるところが面白い。

【了】

森昌利●文 text by Masatoshi Mori

 

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