アトレティコの「5-5-0」は未来のサッカーの予兆? “攻撃力ほぼゼロ”の代償の先にあるモノ
【識者コラム】アトレティコの5-5ブロックは合理的
5-5-0。肉まんでもサビ止めスプレーでもなく、サッカーの話である。
現地時間4月5日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝の第1戦、スペイン1部アトレティコ・マドリードが使ったフォーメーションだ。ゼロトップは今どき珍しくはないが、5-5の2ラインというのはあまり見ない。キックオフの時点では5-3-2だった。ところが、すぐに2トップのジョアン・フェリックスとアントワーヌ・グリーズマンがMFのラインに吸収されて5-5になっている。後半はグリーズマンをトップに戻した5-4-1にしたので、90分間ずっと5-5だったわけではない。
ただ、CL準々決勝でこういう守備になったのには驚いた。
これまでまったくなかったわけではなく、ここ数年で5-5-0を見た記憶は何度かある。いわゆる5レーンを二層で埋めるのは定石なので、それを極端に守備的な形でやると5-5の守備ブロックになるのはむしろ合理的ではある。
対戦相手のマンチェスター・シティは攻めにくそうだった。アトレティコの2ラインの間隔が狭いので、バイタルエリアへの侵入は難しい。ラインの手前ではいくらでもボールを持てるので、つい中央から行きたくなると思うのだが、そこへ突っ込んでしまうとアトレティコの蟻地獄にはまってしまう。シティの面々は辛抱強くサイドから攻めた。が、なかなかサイドにも打開の糸口を見いだせない。シティのCB2人は完全に余っていて、手持無沙汰だった。逆に言えば、アトレティコの守備ブロックに対してシティは常に2人の数的不利なのだ。
試合は後半25分まで0-0。このまま終わればアトレティコの思惑どおりだった。しかし、交代出場のフィル・フォーデンがごく狭いライン間で受けてからの股抜きパスでケビン・デ・ブライネのゴールをセット。シティが待望の1点をゲットして1-0で勝利している。
アトレティコの超守備的サッカーには各方面から批判が出ているようだ。アトレティコで短い期間だが監督だったこともあるアリゴ・サッキは「どこがサッカーなのだ」と厳しく批判していた。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。