浅野拓磨が照らすボーフムの未来 ホッフェンハイム戦の2ゴールで示した成長の“道標”
さらなるステップアップを見据えて前向きなリニューアルに着手
今季の浅野は、激しいチーム内競争の中で自身の成長を感じ取っていた。トーマス・ライス監督から与えられたポジションは左右のウイングで、このポジションにはドイツ生まれながら母親の出身地であるフィリピン代表を選択したFWゲリット・ホルトマン、ガーナ代表のFWクリストファー・アントウィ=アジェイ、セルビア人MFのミロシュ・パントビッチといった猛者が居並び、浅野は彼らとのローテーションで起用されてきた。特に、ホルトマンとアジェイは第22節でバイエルン・ミュンヘンを撃破(4-2)した試合でともにゴールを決めており、浅野自身も当時は「チームメイトのほとんどが調子が良いから、なかなか厳しい」と苦笑いを浮かべていた。
そんな浅野に、貴重な出場機会が訪れた。3月の国際Aマッチウィーク入り直前に、ホルトマンが新型コロナウイルスのPCR検査で陽性反応を示したのだ。実はホルトマンは今回、念願だったフィリピン代表での国際試合デビューを飾る予定だったが、これにより代表帯同を断念し、中断明けのリーグ戦出場も微妙な状況となった。そして、ライス監督はリーグ中断明けのホッフェンハイム戦でホルトマンを帯同させず、浅野を左ウイングの先発に抜擢した。
Jリーグのサンフレッチェ広島、そしてアーセナル(イングランド)からのレンタルでブンデスリーガのシュツットガルトやハノーファーでプレーしていた時代の浅野はセンターフォワードでのプレーにこだわっていた。備え持つ走力はブンデスリーガでも際立っていて、その特性を生かすためにも最短距離で相手ゴールへ迫れる敵陣中央のポジションを重要視していた。
しかし、パルチザンでのセルビア時代を経て、浅野はマルチロールへと変貌を遂げた。ブンデスリーガの舞台では最前線の1トップにポストワークやクロスボールからのフィニッシュを最重要タスクと課す傾向が強く、浅野が欲するポジションと役割がリンクしない状況下にあったことも彼の意識改革を促した。その結果、今季から加入したボーフムでは一貫してウイングプレーヤーとして尽力し、ゴールよりもチャンスメイクに心を砕いていたように思う。一方で、日本代表の一員としてカタールW杯本大会の出場権を得た今、本人はさらなるステップアップを目論んで前向きなリニューアルを図りつつある。
ホッフェンハイム戦での先制ゴールは左サイドからカットインしてペナルティーエリア外から豪快な右足ミドルを突き刺した形だった。パルチザン時代もミドルシュートは決めていたが、左サイドからのカットインは新境地に達した感がある。一方で、1-1の状況からゲットした決勝ゴールはカウンターシチュエーションで相手センターバックと1対1の局面に挑み、ハーフウェーライン中央でその勝負に打ち勝ってフィニッシュした究極のストロングパターンだった。“新潮流”と“本筋”が融合した2つのゴールシーンは、浅野拓磨というプレーヤーの未来を切り拓く確かな道標となった。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。