改革が進む欧州女子サッカーの“青写真” スペインの一戦で8万5000枚チケット完売…着実に向上するステータス

アリアンツ・アレーナで女子サッカーの歴史的な試合、1万3000人のファン

 ドイツで興味深かったのは、代表取締役オリバー・カーン氏が「バイエルン女子が50年の歴史の中でこうした一歩を踏み出せることを喜ばしく思う。イエンス・ショイアーが監督を務めるチームがアリアンツ・アレーナでPSGとCL準々決勝の試合を行うことになった。これまでに功績に報いられることだ」というコメントを出した時、元選手のヴェレーナ・シュベールスが痛烈なカウンターを見舞ったことだ。

「イエス オリバー・カーン! 責任ある方からの素敵な声明ですね。ありがとうございます。でもカーンさんはまだスタジアムへ足を運んで、私たちの応援に来てくれたことはないですよね?」とウィンク顔の絵文字を添えてポストした。

 カーン氏が女子チームの試合へ足を運んだことはある。ただヘルベルト・ハイナー会長、ウリ・ヘーネス名誉会長、あるいは男子トップチームのユリアン・ナーゲルスマン監督ほど頻繁に観戦に訪れる姿が見られているわけではなかったという。ちなみに昨シーズン優勝を決めた試合でも観客席にいたのはハイナー会長と元代表取締役のカールハインツ・ルンメニゲ氏だった。

 とはいえ、バイエルンがクラブとして女子サッカーのステータスを高めようと動いているのも事実だ。クラブ内での優先順位もこれまで以上に高く設定されている。選手やチーム関係者からするとまだまだ世間の注目を集められるほどのところまでは来ていないという思いもあるかもしれないが、それこそアリアンツ・アレーナで試合開催ができるというのは歴史的なことなのだ。

 普段試合が行われているバイエルンアカデミー内のスタジアムは2500人がマックス。平均客数は1500人ほど。それが前売り券の段階で1万席売れ、1万2000人と予想されていた観客動員は、それよりも多い1万3000人のファンが集まった。

 客層を見ると、女の子ファンの姿がとにかくたくさんあった。自身もサッカーをしているのだろうか。学校の友達を誘って見にきたのだろうか。試合中にも彼女たちからの「FCバイエルン!」という大きな声がスタジアムのいろんなところから聞こえてくる。一時は0-2となって静まり返ったスタジアムで最初に聞こえてきたのも子供たちの声援だった。ほかにも生粋のバイエルンファンと思しき年配ファンの姿も見える。バイエルンはバイエルン。同じDNAを持つチームなのだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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