改革が進む欧州女子サッカーの“青写真” スペインの一戦で8万5000枚チケット完売…着実に向上するステータス
【ドイツ発コラム】バイエルンとPSGの女子CL準々決勝、アリアンツ・アレーナで初開催
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)は特別なリーグ。それは男子サッカーだけではなく、女子サッカーにとっても本来はそうであるべき。ただこれまでは正直、注目度は男子のそれに比べれば雲泥の差だった。どれだけ選手やチームが頑張っても、そもそも盛り上げてくれる媒介がない。それではなかなか市井のサッカーファンの興味を引くこともできない。
UEFA(欧州サッカー連盟)はリフォームに踏み込んだ。今季から男子サッカーと同様にグループリーグを導入。そして女子CLのための専用アンセムも生まれた。タイトルは「The time is now」。これは相当にカッコいい。そう、今こそまさに「その時」なのだ。
ドイツでは、スポーツ専門動画配信サービス「DAZN」で放送されるほか、全試合がYouTubeでも見ることができる。女子サッカーの魅力やポテンシャルを、できるだけ多くの人に知ってもらおうと、さまざまな動きがされている。試合会場にしてもそうだ。
先日開催されたバイエルン・ミュンヘンとパリ・サンジェルマン(PSG)とのCL準々決勝はアリアンツ・アレーナで開催。これは女子サッカー界においてドイツ女子代表戦を除けば初めてのこと。バイエルンはクラブとしてこの試合のアピールに力を注いだ。
バイエルン監督ユリアン・ナーゲルスマンをはじめ、ヨシュア・キミッヒ、セルジ・ニャブリ、ジャメル・ムシアラらがファンに「一緒に応援しよう!」と動画で呼び掛けた。選手のジュリア・グビンは「すごい素敵なこと! 女子サッカーにとっての広告というだけではなくて、将来に向けての大事な信号になる」と喜び、選手もプロモーション活動に参加して思いを訴え続けた。
こうしたロビー活動すべてがイメージどおりに上手くいっているわけではない。ミュンヘンではこれまで女子サッカーに足を運んでいない人が、「見にいってみようかな?」「これは見に行かなきゃ!」というほどの好奇心を呼び起こすほどの成果をもたらすことはできなかった。それでもバルセロナ対レアル・マドリードの一戦では8万5000枚チケットが完売となるなど、ヨーロッパにおける女子サッカーのステータスは少しずつでも、確かに大きな一歩を踏み出している。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。